【3.11から10年】ライフラインが復旧するまでの知識と備え[4]

【トイレ編】災害後の使用注意点と、簡易トイレの作り方

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災害時のトイレ使用の注意点

「ただ断水しただけの場合なら、バケツに水を入れて勢いよくトイレに流せばなんとかなりますが、下水が使えない場合は、当然ながら水洗トイレは使えません」

 こう話すのは、都市工学のプロフェッショナルで特定非営利活動法人日本危機管理士機構の理事長である市川宏雄明治大学名誉教授。

 地震などの災害時に排水管が壊れた場合は、水洗トイレを使うと汚水があふれたり逆流する危険があります。また、断水復帰後でも、給水管内にエアーが溜まり、復帰後の水圧でこのエアーが圧縮され、その圧縮空気が器具へ供給される場合に衝撃(エアーハンマー)が発生する危険があります。

 器具を傷めないためには、給水管にエアー抜きバルブがある場合、器具使用前にエアー抜きをしましょう。エアー抜きバルブがない場合は、トイレ使用前にキッチンや洗面所の水栓のバルブをゆっくり開けてエアーを抜くことで対処できます。

 また、下水に損傷はなく流せる状態の断水時は、バケツ1杯程度の水を便器に一気に流し込み、さらに3~4Lの水をゆっくり注ぎます。ただし、排水管の途中に汚物が停滞する場合がありますので、使用2~3回につき一度は、バケツ2杯程度の水を流す必要があります。

 また、最近のリモコン式のトイレの場合は、断水していなくても停電時には手動に切り替えないと使えません。マニュアルを確認して、手動で流せるようにしておきたいものです。

ポリ袋と新聞紙でトイレはつくれる

ポリ袋を便座にかぶせるようにしてセットして、新聞紙を敷くだけで簡易トイレはつくれる(写真◎三星雅人)

 被災後、臨時のトイレが設置されるのは、水や食料の支援の後になります。ですからトイレも自前という可能性は十分にあります。水洗トイレで、停電、断水、下水も使えない最悪のケースを想定してみましょう。

「トイレの便座に腰をかけられるのでしたら、便座にポリ袋をかぶせて、袋の中に用を足し、それを捨てるという方法があります」

アウトドアで着替えやシャワーなどに使用する縦型テントで個室づくり。簡単にトイレが設営できる(写真◎三星雅人)

 被災して家のトイレが使えない状態なら、屋外にトイレをつくる方法もあります。
 庭があるお宅なら、穴を掘ってポリ袋かぶせた段ボールを穴に入れます。足場はブロックなどを置き、即席の和式トイレにするのです。

 しかし、これはなりふり構わずの最終的な方法。アウトドア用品店にある屋外用のトイレを利用すれば、一戸建ての庭や、集合住宅のベランダにトイレ空間をつくることができます。

 便座になる折り畳み式のイスにポリ袋をかぶせ、イスの下にポリ袋で覆った段ボールを置き、そこに用を足します。新聞紙には消臭作用もありますし、さらにデオドラントシートを敷いておけば、臭いもさほど気になりません。

「臭い取りだけなら、大人用のトイレシートでなくペット用でも代用できます。ただ、吸収して固まらせるタイプのものは、ペット用では不十分です」

 実際「ネコ用のシート」や「ネコ砂」を敷いて試したところ、明らかに役不足でした。大人用トイレシートは100円ショップでも手に入りますので、非常持ち出し用品のリストに加えておきたいものです。ごみ袋としてはあまり使われなくなっている黒色のポリ袋も、このような使い方では中身が見えず重宝します。45Lは大きいようでしたら、ひと回り小さい30Lの袋のほうが使いやすいかもしれません。

「トイレを覆う目隠しには、アウトドアで着替えに使ったり、簡易シャワー用として売られているテントがおすすめです」

 これはワンタッチで広げられますし、風対策でペグやブロックやレンガで固定できます。地面の接地面は1m四方で、集合住宅のベランダにも簡単に設置ができます。

 排泄物は溜まっていきます。ごみが回収されるまでは、どこかに集めておくしかありません。そうした点を考慮すると、やはりデオドラントシートはほしいところ。どうしても臭いが気になる、置き場に困るというときの裏技をご紹介。

「私ならマンホールのふたを開けて中身を捨てます。別に恥ずかしいことではなく、これは詰まる心配もなく確実に処理できます。大地震の後に水洗トイレが使えなくなった時に、マンホールの蓋を外して、そこを簡易トイレとして用を足すことは、よく行われてきたことです」

 実際、災害用のトイレには、下水直結のタイプもあります。すっきり排泄できれば、次のアクションを起こす気力も湧いてくるというものです。

〈お話を伺った方〉

市川宏雄(いちかわ ひろお)さん

明治大学名誉教授 特定非営利活動法人 日本危機管理士機構・理事長
1947年に生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ・ウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了。一級建築士。富士総合研究所(現、みずほ情報総研)主席研究員などを経て、明治大学政治経済学部教授、明治大学専門職大学院長、明治大学危機管理研究センター所長を歴任。日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、ダボス会議メンバーなど要職多数。

文◎三星雅人

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