【3.11から10年】ライフラインが復旧するまでの知識と備え[3]

【水・食料品編】「ローリングストック法」が現在の主流

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非常持ち出しの用品の整理

 ご家庭に、水や食料を含め、非常持ち出し用のバッグはご用意されていますでしょうか。

 3日分の飲料水(1人1日3リットルが目安)、食料としてご飯(アルファ米など)、缶詰、ビスケット、板チョコ、乾パンなど。さらに、トイレットペーパーやティッシュペーパー、マッチ、ろうそく、カセットコンロ、鍋など、ざっとこのようなものが浮かぶかもしれません。

 救助や支援がやってくるであろう3日を過ごすためと割り切れば、なんとかなるかもしれませんが、これだけでは相当心細いはずです。

 上記に加えて、救急用品(ばんそうこう、包帯、消毒液、常備薬など)、ヘルメットや防災ずきん、軍手、懐中電灯、着替え、下着、毛布、タオル、携帯ラジオ、予備電池、携帯電話の充電器、洗面用具、冬場なら使い捨てカイロ、特にいまならマスクやアルコール消毒液・シートも欠かせないはずです。

 さらに、貴重品類(現金、預金通帳、印鑑、健康保険証など)も、すぐに持ち出せるようにしておきましょう。

 都市工学のプロフェッショナルで特定非営利活動法人日本危機管理士機構の理事長である市川宏雄明治大学名誉教授は、ご自身の非常持ち出しバッグについてこう語ります。

「これだけ揃えると、リュックサックでは入りきらないはずです。私はキャスター付きの大きめのバッグにこうした生き抜く品々を入れて、専用の保管庫を設け、万一のサバイバルに備えています」

非常食は食べながら補充を

 以前は、非常食は非常持ち出し用バッグに保管して定期的に点検するのがいいとされていましたが、いまは「食べながら備蓄」が常識です。できればパントリーを設置して、食料を消費しながら備えを維持していくことがおすすめです。

 水や食料の保管にあたっては、保存のきくものが前提です。

 例えば、おなじみの乾パンですが、約5年の保存期間を過ぎて、たいていは廃棄していないでしょうか。乾パンはおいしい食べ物とはいえないですし、食べ慣れない食品であることも、放置しやすい要因かもしれません。

 そんなこともあり、いまは普段口にする食品や飲み物を少し多めに買い置きし、消費期限まで保存するのではなく、消費したら新たに補充していく「ローリングストック法」と呼ばれる保存法が主流です。この方法なら、あえて消費期限が長いものを準備しなくてもよく、また、うっかり消費期限切れになるといった失敗も減るはずです。

最近は、食べては補充する「ローリングストック法」が主流に(写真◎PIXTA)

「ストックをするということは、モノが増えるということです。モノを持たないことを良しとする『ミニマリスト』の生活とは対極の考え方ですが、万一に備えるという点では、モノが増えるのは必要なことです。米国の家庭なら、大型冷蔵庫のほかに保存用の冷凍庫があるのが当たり前ですが、日本の住宅事情では保存用にもう1台とはいかないこともあります」

 新築の一戸建てや集合住宅には、キッチンに隣接するパントリーが設けられることが増えてきました。日常的に消費しながら万一に備えるのが理想的といえます。

「パントリーのようなスペースがなくても、冷蔵庫に入れなくてよい食品を保存する場所は確保したいものです。また、普段でも食べるものを保管することを考えると、取り出しやすく、万一の時にすぐに持ち出せる場所にしたいものです。また、分散して保管するのもおすすめです」

貴重な水は飲食用を優先

 過去の大災害で断水した際、水道が復旧するのに1週間ほどかかりました。東日本大震災では、地域によっては完全な復旧までに6か月半かかったケースもありました。

 給水車などにより、最低限の飲料水が確保できるようになった際、役に立つのが飲み終わったペットボトル。捨てないで、給水の際にそのボトルに水を入れてもらいましょう。もちろん、ポリタンクを備えていればベストです。

 こうして手に入れた貴重な飲料水は、食器の洗い物には使いたくはありません。使い捨ての紙皿やアルミ皿が便利ですが、枚数に限りがあるので、皿をラップで包んで食べ物を載せて食べれば、汚れたラップだけ捨てられます。

 口にしないものを洗い流す際、どのような水を使ったらいいでしょうか。

雑用水として有効な雨水タンク(写真◎PIXTA)

「お風呂の残り湯や雨水タンクは、雑用水としては有効です。ただ、水は痛みますので、いくら口にしないものでも、衛生上、あまりおすすめはできません。断水生活が長期化しない限り、どうしても備えておかなければならないものではありませんが、どんな水でもろ過できる高性能フィルターもあります」

 洗濯や入浴など、小さいお子さんがいる場合は着るものの替えはなんとか確保したいものですが、大人はある程度落ち着くまでは、着の身着のままで過ごし、限られた飲料水や食料を最優先させましょう。

 最後に、忘れていけないのは、携帯用の浄水器を常備しておくことです。廉価なものから高価なものまでありますが、これがあれば、被災時に簡単に手に入れられない飲料水を作ることができます。命の水の確保です。

〈お話を伺った方〉

市川宏雄(いちかわ ひろお)さん

明治大学名誉教授 特定非営利活動法人 日本危機管理士機構・理事長
1947年に生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ・ウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了。一級建築士。富士総合研究所(現、みずほ情報総研)主席研究員などを経て、明治大学政治経済学部教授、明治大学専門職大学院長、明治大学危機管理研究センター所長を歴任。日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、ダボス会議メンバーなど要職多数。

文◎三星雅人

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