【3.11から10年】ライフラインが復旧するまでの知識と備え[2]

【ガス編】カセットコンロとガスボンベが大活躍

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都市ガスの復旧はきわめて遅い

「都市ガスは比較的安価でもっとも安定して供給される燃料ということで人気がありますが、災害で配管網が被災すると、復旧に時間がかかります。1か月以上は使えないという覚悟が必要です」

 こう語るのは、都市工学のプロフェッショナルで特定非営利活動法人日本危機管理士機構の理事長である市川宏雄明治大学名誉教授。

 そこで、オール電化の住宅はもちろん、高層マンションや都市ガスを利用している住宅にお住いの方に、ぜひ用意してほしい備品がカセットコンロです。カセットコンロはマッチやライターがなくても点火できますし、ガスボンベ1本で20~30分くらいは使用できるので、都市ガスが使えないような非常時でも、お湯を沸かしたり調理したりが可能です。

 ただ、注意したいのは保管場所。カセットコンロは場所を取るので、床下収納やキッチンの収納庫の奥に保管しがちです。

「家具や家電製品の転倒防止策をしていないと、大きな地震のときは大型冷蔵庫でも『飛ぶように』動きますし、食器棚からは食器が落ち、棚も倒れてきます。多くの場合、床が見えないほど散らかることでしょう」

 とくに床下収納は、取り出せなくなることが十分に考えられます。例えば、日常使用のカセットコンロとは別にもう1台購入し、緊急用としてガスボンベとともに取り出しやすいところに保管しておくことをおすすめします。

用途が広がるガスボンベ

 カセットコンロの使用時は、加熱にも注意が必要です。可燃部と燃料のガスボンベが近いところにセットされているので、鉄板焼きや大きなフライパンを使用する場合、熱がこもって過熱から爆発することがあります。そのような使用は絶対にしないでください。

 また、多くのカセットコンロは屋内で使うことが前提のため、風に弱いという欠点も。被災後は、屋外あるいはマンションならベランダで使用せざるを得ない状況も考えられます。アウトドア使用の風防付きカセットコンロも発売されていますので、もう1台カセットコンロを揃えるなら、アウトドア用品店をのぞいてみてもいいかもしれません。

 アウトドア用品店には、キャンプグッズでおなじみのキャンプ用ガスバーナーコンロも揃っています。風に強く火力も強いので、条件が悪い屋外でも使い勝手は抜群です。また、小型ストーブ兼コンロは冬場の暖を取るのに便利で、暖を取りながらお湯を沸かすことができます。

 これらのアイテムは、最近ではカセットコンロのガスボンベを利用できるタイプも登場しているのでおすすめです。ガスボンベは、100円ショップなどでも手軽に購入ができます。ただ、ガスボンベにも使用期限があるので、日頃から使いながら補充していくという備蓄法が望ましいでしょう。しかし、非常時の安心を考えれば最低でも10本程度の備蓄は必要でしょう。

旅館でおなじみの固形燃料も

小型の飯盒やコッフェルなら固形燃料が燃え尽きる前に水を沸騰させることはできる。固形燃料は100円ショップでも入手でき、価格が安いのも魅力(写真◎三星雅人)

 ガス供給が止まり、照明もおぼつかないようなとき、旅館の食事で見かける固形燃料も案外使えます。

 固形燃料はアウトドア用品店以外にも、100円ショップやネットで手頃な価格で購入できます。旅館の食事で使われるようなコンロは、ネットで1,000円くらい。また、ポケットストーブという名称で、折り畳みの式のコンロや風よけがセットになったものも売られています。

 キャンプ用の小型コッフェルなら水を沸騰させられますし、少し大きめの鍋でも、時間はかかりますが湯を沸かすことができます。火はだいたい20分くらい持ちます。

暖を取る方法

火がなくても体を保温できるアルミ毛布やアルミシート (写真◎三星雅人)

 冬場、暖を取ったり、調理するにあたって、電気を必要としない石油ストーブやコンロは大変便利です。灯油を燃料とするため、集合住宅では禁止されている場合もありますが、可能なら用意しておくといいでしょう。

 地震で家の中が危険な状況にある場合は、屋外で夜を明かさなければならないこともあるかもしれません。

「庭があるなら、焚火というのもやむを得ないでしょう。火災に気をつけることはいうまでもありませんが、もし、趣味でつくったピザ窯とかバーベキュー用のコンロなどがあるのならば、これらもいざというときに役立ちます」

 焚火ができない状況もあるでしょう。毛布やダウンなどを持ち出して羽織ることができればいいのですが、それも難しい場面も考えられます。

 そんなときは、保温に効果を発揮するアルミ毛布やアルミシートが役に立ちます。
 市川さんは、「コンパクトでかさばらないので、非常用持ち出しバッグのみならず、通勤通学のバッグにも入れておくことをおすすめします。万が一、出先で被災した際にも、かなり重宝します」といいます。

「被災したときはキャンプの知識がとても役に立ちます。サバイバルの一面もありますので、一度キャンプの真似ごとでもいいですから、野外生活を体験してみることもおすすめです」

熱源3種の火力を比較してみた

 今回ご紹介したカセットコンロ、キャンプ用バーナーコンロ、固形燃料を使うポケットストーブの3種を使い比べてみました。非常食としても重宝するカップ麺用の湯を想定して、常温の350mlペットボトル1本分を沸かします。

写真上からカセットガスコンロ、キャンプ用バーナーコンロ、固形燃料を使うポケットストーブ(写真◎三星雅人)

 多くのカップ麺は、300~350㏄のお湯でつくることができます。外気温14度、水温11度、使用する鍋は少し厚めの小型ホウロウ製で、同じ条件で350ml(350cc)の水を沸かしました。

 まずカセットコンロから。少し風がありましたが、炎が多少揺れるくらいで風よけの必要は感じませんでした。4分弱で沸騰しました。

 続いてバーナーコンロ。多少の風でも影響はありません。3分弱で沸騰。

 そして固形燃料を使うポケットストーブは、風の影響をまともにうけ、風よけを使わないと炎がゆらゆらしてしまいます。また、鍋の熱伝導率の問題もあり、15分経っても沸騰までには至りませんでした。アルミ製のキャンプ用コッフェルの鍋では、15分ほどで沸騰しました。実感としては、厚い鍋では使い勝手に難ありですが、レトルトの食品を温めたり、保温をする程度なら十分に使えました。

〈お話を伺った方〉

市川宏雄(いちかわ ひろお)さん

明治大学名誉教授 特定非営利活動法人 日本危機管理士機構・理事長
1947年に生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ・ウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了。一級建築士。富士総合研究所(現、みずほ情報総研)主席研究員などを経て、明治大学政治経済学部教授、明治大学専門職大学院長、明治大学危機管理研究センター所長を歴任。日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、ダボス会議メンバーなど要職多数。

文◎三星雅人

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