【3.11から10年】ライフラインが復旧するまでの知識と備え[1]

【電気編】停電時に必要なアイテムと電気製品を使う方法

空間
その他
関心
防災

忘れた頃にやってくる大震災に備える

 東日本大震災から10年――。
 これまでにも、阪神淡路大震災(1995年)、中越地震(2004年)、中越沖地震(2007年)、熊本地震(2016年)、北海道胆振東部地震(2018年)など、地震だけでも多くの方が被災されました。

 今後30年間で「南海トラフ地震」が起こる可能性は70%~80%といわれ、最大でM(マグニチュード)9クラスの大地震が発生すると予測されているため、早期の対応が必要です。
文部科学省研究開発局地震・防災研究課 地震本部公式サイト

 被災する場所は、自宅や勝手がわかる地元ばかりとは限りません。「帰宅難民」という言葉がありますが、少なくても通勤や通学ルートのハザードマップや避難場所の確認はもちろん、家族の役割分担、連絡手段は日頃から決めておきたいものです。

 大きな災害が起きてから、「72時間」が生死を分ける時間といわれています。
そこで、最低72時間を乗り切るために用意しておきたいもの、ライフラインが復旧するまでにあると便利なモノをご紹介します。まずは必要最小限の電力を確保する方法を考えます。

照明と情報収集の電源確保

 いまや電気なしの生活は考えられません。ほぼすべてが電気仕掛けといってもいいくらい、私たちの暮らしと電気は切っても切れない関係にあります。大きな災害時には停電が予想されるため、明かりの確保が必要です。懐中電灯やランタン、ろうそく、ライター、マッチ、さらに乾電池も、すぐに取り出せる場所に常備しておきたいものです。

「電気は比較的早く復旧できるライフラインですが、阪神淡路大震災後の通電火災の教訓から、災害後あえて時間をおいて状況がやや落ち着いてから電力を回復させます。早ければ2~3日後、だいたい1週間以内と考えられます。通電が再開した時に火災が起きないように、地震発生後に家を離れる時にはブレーカーを落とす。これは忘れずにしておくべきことです」

 こう語るのは、都市工学のプロフェッショナルで特定非営利活動法人日本危機管理士機構の理事長である市川宏雄明治大学名誉教授。

「さらに災害の情報を確保するうえで、最低限の電源は備えておかなくてはなりません」

「情報を得るにはスマホから」と思われる方も多いかもしれませんが、災害でもし基地局や電波を中継するアンテナが被災したり、回線の混雑から思うようにつながらなくなったりしたらどうでしょうか。

「大災害の初期段階では、ラジオが一番手軽に情報を得やすいです。ラジオ機能に加え、懐中電灯やランタン、ハンドルを回して発電、太陽光パネルでスマホを充電できるなどの多機能を備えたグッズも出ています。このようなものがあると便利ですね」

懐中電灯、ラジオ、太陽光充電、手回し充電機として使える多機能グッズ(写真◎三星雅人)

 こうしたグッズは3,000円程度で購入できますし、価格は少々高くなりますが、ワンセグのテレビ付きというものも登場しています。

電源確保は蓄電池や発電機で

 災害後の被害状況にもよりますが、テレビやパソコンを使いたい場合はどうすればいいのでしょうか。

「このような電力供給には、ガソリンエンジンの発電機が必要です。また、カセットボンベのガスでエンジンを回すタイプや、LPガスのボンベからガスでエンジンを回し、発電するタイプもあります」

 ガソリンエンジンの発電機は排気ガスが出るので、室内での使用は厳禁です。また、静音仕様のものでもそれなりに騒音や振動が発生するので、ご近所への配慮が必要です。

 さらに最近では、大容量の蓄電池も続々登場しています。スマホの充電など消費電力の少ない電気製品の充電に特化した2万円程度のものから、電子レンジや電気毛布、電気ストーブなどの家電品も使える10万円台のものまで。これらがあれば、通電までの数日間をしのぐために必要最低限の電気を確保できます。

EV、ハイブリット車を電源にする

車の直流12Vソケットから交流100Vに変換するインバーター。この機械は理論上は300Wの電気製品が使える (写真◎三星雅人)

「停電下でも、大きな電力を使いたい場合であれば、EV(電気自動車)の活用が有効です。車のバッテリーと家とを結ぶ装置が必要ですが、ゆとりの電気供給が可能です」

 EVは大容量のバッテリーでモーターを回して走行します。国産EVのバッテリーの容量は40kWh(62kWhモデルもあり)です。これは1,000Wの電気製品を40時間連続して使える電力量に相当します。これなら停電が続いても、室内の電気系統に問題がなければ車から家へ、日常に近い電力の供給が可能になります。

 充電が可能なプラグインハイブリッド車やハイブリッド車も、災害時に活用できます。車に100Vコンセントが付いているモデルも多いので、スマホの充電や照明の確保にはEVより使い勝手がいいかもしれません。1,500Wの電力を供給でき、燃料が満タンなら、平均的な家庭の日常使用電力量(約400W/時)を4~5日分は賄えるといいます。

 一般的な車でも、最近はUSB出力端子が付いているのでスマホの充電くらいはできますし、カーショップなどで購入できるインバーターを使えば、消費電力の少ない家電製品を使うことができます。車のあるご家庭なら、災害対策グッズの一つとして用意してもいいでしょう。

 また、東日本大震災の計画停電時に、自宅の発電機を使って電気製品を使用していた方が、「なぜお宅だけ電気が通っているのか」とご近所から聞かれたそうです。理由を説明し、スマホと明かりの電源を分配したところ、喜ばれたというエピソードも。

「災害時は自分だけが電気で快適に過ごすのではなく、助け合い、共助の気持ちが必要です」

 停電下で避難所生活をせざるを得ないとき、施設にスマホの充電ステーションなどをつくることで、近所の皆さんとコミュニケーションが円滑になるということもあるようです。

〈お話を伺った方〉

市川宏雄(いちかわ ひろお)さん

明治大学名誉教授 特定非営利活動法人 日本危機管理士機構・理事長
1947年に生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ・ウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了。一級建築士。富士総合研究所(現、みずほ情報総研)主席研究員などを経て、明治大学政治経済学部教授、明治大学専門職大学院長、明治大学危機管理研究センター所長を歴任。日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、ダボス会議メンバーなど要職多数。

文◎三星雅人

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)