(3)防水性の塀で敷地を「囲む」
水害対策の3つめの手段は、前回ご紹介した「かさ上げ」「高床」とは異なり、「水防ライン」を設定して建物を守るという考え方によるものです。
水防ラインとは、浸水を防止することを目標として設定するラインのこと。
対象建築物(建築物の外周や敷地)などを囲むようにラインを設定し、ライン上のすべての浸水経路に止水板などを設置することで浸水を防ぎます。
しかし、敷地全体を防水塀で囲む方法については、小笠原さんは懐疑的です。
「仮に敷地のまわりをブロック塀で囲んだとしても、よほど塀の基礎を深く入れていないかぎり、水が押し寄せたら簡単に倒されてしまうでしょう。費用対効果の面や、そもそも壁が水圧に耐えられるのかということを考えると、敷地のまわりをすべて囲むというのは現実的ではない気がします」
(4)防水性の外壁を設けて建物を防水する
「敷地で囲む」は現実的ではないとのことでしたが、「建物を防水壁で囲む方法」であれば、実現の可能性は高まります。
その場合、防水壁の高さをどの程度にするかが検討事項となりますが、小笠原さんは、「少なくとも基礎部分から水が入らないようにするだけでも、それなりの効果があるのでは」と話します。
「建築基準法では、『建物の基礎は30cm以上の高さを設けなければならない』という告示があります。そのため、コンクリートの基礎が30cm以上設けられている家であれば、対策することによって理論上は、少なくとも30cmは水没しても水が入らないようにすることは可能ということになります」
この時、「床下換気口や玄関といった開口部を塞ぐことが大事」と小笠原さん。
「たとえコンクリートの基礎が30cm以上設けられていても、床下に換気口があると、そこから水が入ってきてしまいます。また、玄関は通常、基礎よりも低く設けられているので、玄関からも水が入らないように塞ぐ必要があります。
玄関に土嚢や水のう、タオルなどを敷けば、それらが壁になってある程度の浸水は防いでくれます。仮にチョロチョロと入ってきても、ザバーっとは入ってこないでしょう」
「基礎だけを防水仕様にするのは不安」ということであれば、思い切って、壁全体がコンクリートでできている鉄筋コンクリート造の建物にする方法も考えられます。実際、津波の被害にあった地域では、木造住宅よりも、コンクリート造の建物のほうが多く残されました。
しかし、そもそも木造住宅の壁全体をコンクリート造にするリフォームはできないので、建て替える必要があります。
建て替えが難しい場合、応急処置として、家の一部を板や土で覆うだけでも違うといいます。
「玄関に止水板を設けたり、水圧に押されないように土嚢で抑えたりすることで、多少なりとも浸水を防げる可能性があります。急ごしらえであれば、やらないよりはマシです」
絶対に安全な水害対策はない
国土交通省が推奨する4つの水害対策について、小笠原さんは「すべての家に有効な特効薬はない」と話します。
「何か一つの絶対的なやり方があるわけではありません。様々な方法を組み合わせ、敷地や施主の状況に応じて個別解を検討していく必要があります。また、何かしらの水害対策を行う場合、それにともなう弊害も出てくる可能性があることを忘れてはいけません。たとえば、1階をピロティ状にすると、今度は耐震対策が必要になるなど、『こっちを立てるとあっちが立たない』といったことも起こりえます。そのため、それぞれの土地や建物の固有の状況を鑑みながら、あらゆる分野を横断して検討する必要があります」
ピロティとはフランス語で「杭」という意味で、1階部分が柱などの構造体のみでつくられ、2階以上に部屋を設ける建築のこと。
詳しくは次回ご紹介しますが、東南アジアの低地などでは洪水対策として採用されています。
また、お話を伺うなかで、小笠原さんは「『これをすれば絶対に安全』などという方法はない」と繰り返し強調されていました。
「圧倒的な大自然の影響力に比べたら、土木や建築で可能な対策は微々たるものです。水害リスクのある地域に住んでいる限り、どんな水害対策を行っても完全に家を守れる保証はないということはありません。
さらに、現在水害リスクが無いとされる地域に住んでいても、異常気象がより深刻になることによって、水害リスクがある地域として指定される可能性もあるのです。あくまでも、何かしらの対策を行うことによって、水害を受ける確率がどれだけ低くなるかという視点から考えた方が良いでしょう」
次回は、浸水する可能性をあらかじめ考慮した家づくりについて解説します。
( 第3回に続く)
会員登録 が必要です