和風が若者に注目されるのは当然の流れ
「ベッドやソファのある暮らしは日本にも浸透しましたが、土足の生活は定着しませんでした。ソファでくつろぐのも気持ちいいけれど、裸足でゴロッとできるのはとても魅力的です」
「和の匠」こと森村厚さんは、ゴロッとできる生活の心地よさを作品に生かしています。
純和室には、鴨居(かもい)や敷居(しきい)、襖(ふすま)や障子(しょうじ)といった装置があり、間仕切りは引き戸とするのが一般的。
こうした伝統工法の考え方やテクニックを取り入れつつ、現代の生活に合わせて進化したのが「和モダン」であると、森村さんは定義します。オリジナリティーを発揮しようとしている若い人たちに、「畳のある和室や和モダンが注目されるのもこうした流れの一つ、これは原点回帰であり一時の気まぐれな流行ではない」と分析します。
ただ「和」の家づくりの神髄は、「内と外のつながり」にあるのですが、今の人たちは外を見ない。オフィスでは窓にブラインド、休日の自宅でも、プライバシー確保もあってカーテンや雨戸を閉め、外とのつながりを自ら断ってしまいがちだと残念がります。
「四季の移ろいを感じたり、漠然と庭を眺めたりすることが少なすぎます。『借景』を家づくりに大いに生かすことをお客様に提案しています。『和室は洋室よりお金がかかる』は間違い。和室も洋室も同じ費用で同じレベル、同じ雰囲気の部屋がつくれます」と言います。
ただし、それを実現するためには細かいテクニックを積み重ねることやセンスも必要で、新築のみならず、リノベーションをするにあたっては、「ぜひプロに相談を!」とアドバイスします。
人気テレビ番組で放送された和モダンリノベーション「重くて遠い家」
【作品1】
人気テレビ番組から出演依頼を受けて設計した住宅の和モダンリノベーションの作品です。
「敷地へ行くには、人は歩くことができるが、車は入ることができない急勾配の細い坂道を登ります。生活するのも、工事するのも大変でしたが、視点を変えると風がよく通り、眺めがとても良い敷地でした」
既存の住宅は築50年の木造の平屋で、床の間の付いた続き間の横に縁側が付いている昔ながらの間取り。老朽化により雨漏りや隙間風が発生し、洗面や脱衣スペースもなく、間取りの古さが今の生活スタイルに合わなくなっているという問題もありました。
「老朽化による不具合を修理しながら、現代のライフスタイルに合わなくなった住宅を、土間などの日本の伝統的空間や漆喰(しっくい)などの日本の伝統的素材を使って再生することができました」と森村さん。その結果、細い急な坂道の奥にある、眺めと風通しが良い和モダン住宅に生まれ変わりました。
車椅子で住むバリアフリー和風住宅「地の家」
【作品2】
脚の不自由なご主人の車椅子生活を前提とした新築住宅で、バリアフリーであると同時に和風住宅に住みたいというご主人の要望の2つを柱として設計したそうです。
「バリアフリーの玄関というと、すぐにスロープを用いがちです。しかし、実際は外出用車椅子と室内用車いすを乗り換えるため、スロープは必要なく、乗り換えや不要となった車いすを置きやすいようにスペースを広めにしています」
座敷棟は仏間を中心に構成し、以前の家の座敷部分とまったく同じ寸法を使って新築。そこに以前使っていた障子や欄間(らんま)をはめ込み、畳も表替えをして再利用しました。
「床の間も床の形状は再デザインしましたが、一部の床板を再利用。建物本体を新築として耐震性を向上させる一方で、中身は移築をすることで思い出と家の伝統を引き継ぐことを意識しました。材料の再利用でローコスト化やゴミの削減にもつながりました」
歴史ある街道沿いの街に建つ住まい「提灯」
【作品3】
「旧街道が通る街にこの家は建っています。この地域は新防火地域に指定され、木造2階建て住宅でも防火基準が厳しい準耐火建築物の仕様を要求されました」
具体的には2階の丸太の梁を室内に現したデザインとするために、燃え代(もえしろ)設計という手法を採用しています。これは、火災で木材が一定時間燃えても建物が崩れ落ちたりしないように、あらかじめ燃える部分を見越して太くしておく考え方です。
「この家は周りに家やマンションが建っており、道路からの距離もあまりとることができなかったため、外部に向けて開放的な家にはしづらい環境にありました。そこで、リビングダイニングは小屋裏(天井裏)を現した天井高さの高い空間とし、上部への抜けをつくって開放的な雰囲気にしました」
歴史ある街に、イサム・ノグチがデザインした大きな提灯が下がるリビング、外観も新築なのに古民家の雰囲気を持つ住宅が出来上がりました。
会員登録 が必要です