シリーズ 洋室よりも和室好き![第10回]

畳から始める、ゆとりのある毎日

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畳に触れてもらうことから始める

「畳が家のマストアイテムではない今こそ、畳の魅力を伝えなくては」と、前田さんは各地でワークショップや講演会を積極的に行っています。その一例が、子どもや一般者に向けたミニ畳づくりのワークショップの開催です。

「最近は畳を見たことがない子もいるので、まずは畳とイグサに触ってもらい、その香りを嗅いでもらっています。実際に畳をつくりながら、畳できるまで、どういう人が携わって、どんな素材が使われているのかを考えてもらったりして、体系的にその魅力を伝えています」

期間限定で前田畳製作所が協力しているキッザニア甲子園の「畳職人」というアクティビティの様子。自社のギャラリーでも月に1度ほど子どもから大人までを対象にしたワークショップを開催している。畳に興味をもち海外から参加する方もいるという。写真提供◎前田畳製作所

 また、企業やプロ向けの講演活動も行っています。

「インテリア業界に携わる方や設計士などは、畳についての知識を求めている方もたくさんいらっしゃいます。畳の扱い方、畳の歴史など、さまざまな角度からお伝えすることで、畳の奥深い魅力を感じてもらえればと思っています。そのことが、畳の新しい可能性を広げるきっかけにもなると考えています」

 実際、参加者から新たな展開も始まっています。話を聞いたことで畳に興味を持ち、イグサの産地である熊本県の農家に足を運ぶ方もいれば、海外在住で「自国の家にも欲しい」と畳を購入する人もいるのだとか。
 20年ほど続けてきたこの活動に、前田さんは確かな手応えを感じ始めています。

納期に追われる忙しい時代があった

 前田さんは、昭和40年に祖父が創業した前田畳製作所の3代目。一時期、銀行員として外で働いていた経歴もあり、仕事を継いだ当時は忙しい毎日のなかで、漠然と、このままこの状況が続いていくものなのか不安になることもあったようです。

「父の時代は高度成長期の住宅建設ラッシュ。次々と新築される高層住宅にも和室が2つ、3つとありました。ありがたくも新調の納期に追われるただただ忙しい毎日。畳の修繕のお客様にも『「今月中に表替えをしておいてね、いつもと同じでいいから』と打合せもそこそこに仕事をいだだいていました」

柔道家の古賀稔彦氏と共同開発した、柔道畳『三四郎』。住宅やオフィスだけでなく、武道の「畳」も前田さんの仕事のフィールドだ。写真提供◎前田畳製作所

 お客様との絶対的な信頼関係があったからこそのことですが、黙っていても仕事を任される。「でもその関係に、私たち畳屋はあぐらをかいていた」と、前田さんは反省します。

「ライフスタイルが変わり、従来当たり前だったお客様との関係性は消えかけています。ですから、私たちはもっとお客様の役に立たなくてはならないと思っています。例えば、ひと世代前には、お盆やお正月には家族の帰省などのタイミングにあわせて畳をきれいにするというゆとりある豊かな暮らしの流れがありました。いまの時代にもそのような流れが自然に生まれるように、お客様に畳の価値や魅力について伝えていくことに情熱を注いでいます」

畳屋として伝えていく
「ていねいな暮らし」

畳の魅力を伝えるためにつくった自作の紙芝居。子どもに畳の文化を伝えることで、畳も未来につながっていく。

 前田さんが、畳と触れ合うことで伝えたいのは、「ていねいな暮らし」だといいます。それは一体どういうことなのでしょうか。

「私の考えている『ていねいな暮らし』とは、想像力のある暮らしです。畳ができるまでに、どれだけの人が関わっているか、何でつくられているか、そんなことを考えることが、豊かな暮らしにつながっていくのではないかと思います。それは、畳だけではなくて、食べ物とか物とかすべてのことにつながる意識だと思うのです」

 畳を求めるお客様から、自分らしく心地よい暮らしを見直そうとする風潮が高まっていると感じるという前田さん。

「日本には四季があります。春夏秋冬を快適に過ごすために生まれ、活用されてきたのが和室であり畳です。夏は風を通して涼やかに、冬は鍋を囲んで暖かく……。畳の上で季節のある暮らしを楽しんで欲しいというのが本意ですが、だからといって、昔とまったく同じ生活様式に戻すことを促すつもりはありません。一呼吸おいて、暮らしや自分の生活を一度見つめ直してみる。それだけで十分。そのきっかけに、畳という存在が役立てば嬉しいです」

 いまは、自分たちの暮らしを、自分たちの色で、カスタマイズできる時代です。その選択肢のひとつに和の暮らしがあり、畳のある生活があります。夏は涼しく、冬は暖かくと、季節の変化に合わせて、柔軟に対応してくれる畳。今、改めて、”過ごしやすさ”を追求してみるのはいかがでしょうか。

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お話を伺った方

前田敏康さん

株式会社前田畳製作所 代表取締役
「ていねいに暮らすを、たたみから。」をコンセプトに、日常の仕事だけでなく様々な活動を通して日本の伝統文化である畳のことを伝えていきたいと考えている。キッザニア甲子園の アクティビティ「畳職人」、災害時の畳店プロジェクト「5日で5000枚の約束。」発起人なども務める。
www.maeda-tatami.com

文◎小倉千明
撮影◎宇野真由子

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