
今やアイデア次第で、自分に合わせた暮らしをカスタマイズできる時代。わざわざ新築やリフォームで和室をつくらなくても、フローリングの一画に畳を敷くだけで、和の空間を演出できます。祖父の代から続く畳店を継ぐ前田敏康さんに、近年の畳需要についてお伺いしました。
フローリングの部屋の一角に、小ぶりな同社オリジナル畳「ひのいとひのき」を敷いたケース。これだけで和室の雰囲気が出せる。写真提供◎前田畳製作所
畳のある空間で過ごした体験は、誰しも一度はあると思います。その時感じる懐かしさには、何とも言えないものがあるのではないでしょうか。近年、新築やリノベーションの際に増えているのが、和室をつくりたいという相談で、前田畳製作所にもさまざまな要望が寄せられるそうです。
「以前、こんな方がいらっしゃいました。新築時に寝室を洋室にしたのだけれど、畳の上に布団を敷いて寝たいので、和室に変えてほしいと言うのです。この方には、6畳や4畳半などのサイズで、部屋全面に畳を敷き詰めるリフォームを提案しました。
また、洋風の空間をベースとしながら、一部に和のテイストを加えたい方には、リビングの一角に小ぶりの置き畳を6~8枚敷く方法を提案しています。置き畳には、フローリングが傷つかず滑りにくい『ノンスリップ仕様』をお薦めしています」
こうしたリフォームでは、子どもと一緒にごろっと寝そべってリラックスできたり、インテリアとして和の雰囲気を味わえたりと、喜ばれているそうです。全面に畳を敷かなくても、ライフスタイルに合わせて必要な分だけ畳を取り入れてみるような、柔軟なカスタマイズが可能になってきています。
兵庫県須磨海岸の海の家に納品された「洗える畳」の縁(写真左)。オリジナルデザインにすることで唯一無二感も演出できる。
お客様から求められる要望も、年々多様化しているのだとか。
「例えば、畳を新調する際に、唯一無二のオリジナルなデザインを要望されることが増えました。畳のへりをデニム柄にしたいとか、カーテン生地や親が使っていた着物を使ってへりをつくれないかなどのオーダーです」
畳屋にとって、「へりは布メーカーがつくるもの」という固定概念がありましたが、今の時代はそうではないそうです。多くの種類を準備して、お客様に提示しながら、一緒につくっていく感覚なのだとか。
「砂浜の海の家に敷く畳がほしいというオーダーもありました。その際は、『洗える畳』を提案しました。水着の方が海から上がったまま寝そべっても大丈夫なように、畳表と畳床をビニールの『洗える畳』を提案したのです。砂がついても、濡れても、毎日畳ごと水洗いができたら便利ですからね。多様化していくお客様の要望にどれだけ応えられるかが、これからの畳屋の仕事だと感じています」
このように畳のある空間は、今や住宅以外にも広がっています。その象徴となっているのが、米国google社。オフィスに畳のある空間が採用されたことが、かつて話題になりました。
前田さんも、「オフィスの会議室や教育施設のイベントスペース、カフェなどの飲食店に、畳の空間をつくってほしいという依頼も増えています」と語ります。
例えば、フローリングの空間だとテーブルと椅子の数で、利用人数が固定されてしまいがちですが、畳の部屋にはそれがありません。畳にちゃぶ台を置くと、人数が多少増えても座る位置を詰めるだけで囲むことができます。
「もしお酒の席で、酔っ払ってしまってもそのまま寝転がることもできますしね(笑)。ほかにも、和のテイストを醸し出すためとか、人と人が打ち解けやすくなりコミュニケーションが円滑になったとおっしゃる方も言われる方もいます」
畳の上なら赤ちゃんがあちこち動き回っても段差がないので安心です。また、お年寄りが転倒しても、畳には弾力性があるため、フローリングよりも体を痛める危険は少ないというのもメリットでしょう。
(第10回へ続く)
株式会社前田畳製作所 代表取締役
「ていねいに暮らすを、たたみから。」をコンセプトに、日常の仕事だけでなく様々な活動を通して日本の伝統文化である畳のことを伝えていきたいと考えている。キッザニア甲子園の アクティビティ「畳職人」、災害時の畳店プロジェクト「5日で5000枚の約束。」発起人なども務める。
www.maeda-tatami.com
文◎小倉千明
撮影◎宇野真由子