
人生100年時代、住居に長く住み続けるには、適切なメンテンナスが欠かせません。そして、快適な住まいを実現するには、結婚や出産、親との同居など、ライフスタイルの変化に合わせてリフォームしていくのが理想的です。今回は一級建築士の塩谷敏雄さんに、子どもが独立したタイミングでの大規模リフォームについて伺いました。
子どもが独立し、使わなくなった部屋を持て余している。老後のことも考え、住み替えが頭をよぎるものの、愛着のある家に住み続けたい――。
そんな時に検討したいのが、間取り変更をともなう大規模リフォームです。
「逆にいえば大規模リフォームは、子どもが独立するなど、家族構成に変化があったときがチャンス」と、塩谷さんはいいます。
「壁紙が剥がれたり、お風呂の汚れが落ちにくくなったりしたら、その部分だけ直せば快適に住み続けることはできます。けれども、設備の一部を直しても建物は経年劣化していくため、長く住み続けるにはどこかのタイミングで大規模なリフォームが必要になります。とはいえ、大規模リフォームを決断するのは勇気がいるでしょう。だからこそ、子どもの独立という人生の大きな転機は、リフォームの決断をするチャンスになります」
大規模リフォームは「人生を変える手段」でもあるそうです。
「リフォームの役割は、家を新しくするだけではありません。たとえば、子どもの独立を機にリフォームする方は、皆さん口を揃えて『人生をリセットしたい』とおっしゃいます。これまで仕事、子育てと頑張り、お金も貯めてきた。だからその大切なお金を使って家をリフォームし、新しい人生を始めたいというのです。
第二の人生に向けて人生をリセットしたいという方は、ぜひ大規模リフォームをご検討されてはいかがでしょうか」
子どもが独立するタイミングは、老後を考える時期とも重なります。塩谷さんは、老後を見据えたリフォームにおいては、安心して暮らせる安全な家であることが最も大切だといいます。
「年齢を重ねると、足腰が弱り、家庭内での事故が増えていきます。段差をなくしたり、手すりをつけたりするなど、住まいをバリアフリー化するほか、なるべく階段で上り下りせずに生活できるようにすることが大切です。戸建ての方は、可能であれば、1階だけで生活できるとなお良いでしょう」
こうしたリフォームは、年齢を重ねてからでは難しいと、塩谷さん。多くの人は、リフォームと言えばまず「コスト」を気にしますが、それ以外にも懸念すべきことは多いそうです。
「リフォームは打ち合わせや設備選び、施工から引き渡しまで時間がかかりますし、場合によっては仮住まいでの生活が必要になります。気力・体力が必要な作業なのです。10年、20年後に備え、身体が動くうちにリフォームをして、老後に備えておくことをおすすめします」
子どもが独立するタイミングは、家の中を整理するチャンスでもあるといいます。
「これまでリフォームをされた多くの方が、想像以上に不要な物をためこんでいます。押入れの中の荷物を全部出したら、四畳半がいっぱいになったこともあります。これほど多くの荷物は、リフォームの時でもないとなかなか整理できないでしょう。
不要な物を処分するだけで、家の中は驚くほど広くなります。リフォームをきっかけに、家具を含め、使う物と使わない物を整理することをおすすめします」
また、リフォームをしないでいると、「かつての子ども部屋」の使い道にも困るものです。
勉強机などもそのままにされていたり、何となく物置と化したりしている方も多いのではないでしょうか。
しかし、家が広くスペースに余裕があるならともかく、スペースが限られた家で子ども部屋をそのままにしておくのはもったいないと、塩谷さんは語ります。
「もちろん間取りを変えなくても、夫婦の寝室にしたり、趣味の部屋にしたりと、さまざまな形で活用できるでしょう。でも、壁を取り壊して他の部屋と一体化させたほうが、より暮らしやすくなります。子ども部屋は日当たりが良いなど、家の中でも良いポジションに割りてられていることが多いものです。そこを有効に使えれば、家全体のレイアウトがもっと豊かになるんです」
では、どのようなリフォームを検討すればいいのでしょうか。
次回の記事で、大規模リフォームによる子ども部屋の活用例をご紹介します。
一級建築士。耐震設計士(木造耐震診断士)。宅建士。株式会社エコリフォーム施工責任者。1961年東京生まれ。18歳より父と共に家づくりに励む。94年に塩谷住宅建築一級建築士事務所を開設。2004年、妻の理枝氏と株式会社エコリフォームを設立し、活躍の場を住宅リフォームに移す。これまで600件以上のリフォームを手掛けてきたほか、ショールームにて無料セミナー「知っておきたい! 正しい木造住宅の耐震」を主催するなど、耐震と断熱に関する最新情報の提供も行っている。
文◎八木麻里恵
人物写真◎加々美義人
画像提供◎株式会社エコリフォーム/Shutterstock