「洋」一辺倒から
「和」への回帰現象に期待
杉の柱と梁を表しにした真壁造りの食堂。撮影◎アトリエR
明治維新における欧化政策から戦後のアメリカ追随文化まで、建築においても「洋」一辺倒といってもいい流れがありました。そして平成時代においては「グローバル化」が合言葉のようになっていました。
「平成世代はすでに日本的な空間の実体験が乏しくなっています。小学生に『障子』について質問すると、おばあちゃんの家で見たことがあるといった答えが返ってきます。また、本物の木と『木目調』の区別がつかない子供もいます。物心ついたときから木目調に囲まれて育っていることが影響していると思われます」
しかし、一方では日本的なイメージへの回帰が始まったと、酒井さんは実感しているようです。
「個人がインターネットで世界とつながっていくほど、逆に日本的なものの不在に気づき、日本的なものへの関心を持つ若い世代が増えています。こうした『洋』から『和』への回帰現象は素晴らしいことではないでしょうか。大いに期待しています」
和室はなぜ落ち着けるのか
和室が落ち着けるのは、戸外との絶妙な距離感、畳の生活による低い視線、それに自然素材ゆえ手入れが必要なことから、家との関わりが密になり愛着が生まれるためと酒井さんは分析する。
「和室はなぜ落ち着けるのかと聞かれることがあります。和室は基本的に自然素材で構成された空間ですから、普段の手入れが必要で家との関わりが密になります。障子や襖を開けたり閉めたりする必要があり、これまた家との関わりが密になります。
さらに、窓が大きく開放的であること、縁側や坪庭など戸外と程よい距離感があること、畳に座る生活で視線が低いことも落ち着ける要素でしょう」
「和」の魅力を家づくりに生かす考え方
日本家屋には深い軒が似合う。瓦は耐久性に優れ、軒は夏の太陽をさえぎり、雨水が壁に当たるのを防ぐ。結果として日本の気候風土に適したデザインにつながると、酒井さんは言う。
庇は雨や日射を避ける機能だけでなく、家の印象を決める重要な要素。窓や出入り口に庇や下屋をデザインすることで、落ち着いた和風の家になるという。
こうした「和」が持つ得がたい魅力をどう生かせばいいのでしょうか。
「私は、奇をてらわず普通の暮らしを支える家づくりを大切にしたいと考えています。そして、『和』を非日常としてとらえる世界観、たとえば茶室とか桂離宮のような唯一無二の場所ではなく、日本の気候風土に培われた形と考えています。日本人の根底にある自然観『自(おの)ずから然(しか)りなり』に素直に寄り添うような建物です」
それは一軒の家というだけでなく、日本的な町並みにもつながると酒井さんは語ります。
「日本のように雨の多い地域で木造の家を長持ちさせるには、勾配屋根、深い軒、庇、高い床といった伝統的な工夫が必要です。一方で、防水などの新しい技術は積極的に取り入れ、理にかなった形で家を建てる必要もあります。こうしたことが、気候風土に合った日本的な町並みにつながっていくのです。
家を建てる場所、気候風土、現場で家を建てることについては、たとえグローバル化が進むとしても、『変わらない』要素で、家を建てる作業は、地域密着な行為と言えます。家は建てたら終わりではなく、その後何十年も維持管理しなくてはなりません。地域の工務店や職人が元気であれば、メンテナスも普通に行うことができ、家を長持させることができます。建て主と施工業者が地域で連携することができれば、持続的な家づくり環境になるでしょう」
「和モダン」は日本的町並み再生へのカギ
「変わる」要素としては、素材や触感もあげられます。国産材による木造の家づくりを理想としつつも、時代に応じた合理性が入るのは時代の流れで、可能な範囲での取捨選択が現実的ということです。
「変わる要素として、家の外観もあげられます。特に市街地では防火規定の厳格化で、かつてのように普通に木を使うことが難しくなっています。
しかし、現代的センスで『和』を追求した『和モダン』は、外観においても取り入れる価値が大きいと思います。例えばアルミ庇やアルミ格子、防火仕様のサッシと木格子の組み合わせは無国籍化した住宅街を日本的な街並みへ再生するカギとなるのではないでしょうか」
(第5回に続く)
Desing Style
シンプルで洗練された佇まいを感じさせる空間に伝統的な日本の素材やエッセンスを取り入れたコーディネートです。
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