
和の匠として、人気テレビ番組で和風のリフォームを何度も提供した森村厚さんは、数々の和風建築を手がけ、「和」の魅力は、心地よくくつろげるところではないかと言います。
洋室に対して和室という概念が登場したのは、洋風のモノが次々と日本に入ってきてからという森村さんは、こう分析します。
「竪穴住居に始まる日本人の住まいのなかで、アジアの文化、国内の政治や経済などの影響を受けながら、日本人の気質、気候風土に合った『家』を建ててきました。
しかし、明治以降に入ってきた石と土足の欧米の文化は、一般の人々には住まいとして受け入れられませんでした」と指摘します。
その理由は、「室内でゴロゴロできる心地よさがないからではないでしょうか」と。
横田基地周辺に残る「米軍ハウス」。自治体の保存活動もあり、現在も住宅やオフィス、商店などとして現役で使われている。
戦後、米国の占領下にあった日本には、進駐軍向けに小さな平屋建ての「米軍ハウス」が建てられました。ご年配の方は記憶にあるかもしれません。東京郊外の横田基地周辺に「米軍ハウス」が残り、自治体が保存に力を入れていることもあり、現在でも住宅やオフィス、商店として使われています。
実はこの住宅は、米国人の生活を直輸入した土足でベッドの暮らしを実現させたもので、当時の国内住宅メーカーが米国文化を見よう見まねで学び、建てたといわれていわれています。そのノウハウが住宅メーカーに蓄積され、その後のLDK住宅に生かされたともいわれるエポックメイクなものでした。
やがて、ベッドやソファのある暮らしは日本にも浸透しましたが、土足の生活は定着することはありませんでした。そうした流れをくむ洋風住宅から和の方向に回帰するのは、長い日本人の暮らしの歴史からすれば、必然だったのかもしれません。
リビングのソファでくつろぐのも気持ちいいものですが、畳のある空間でゴロっとできるのはとても魅力的です。
「畳がなくも和風にすることはできる」ということは、森村さんが話してくれましたが、やはり畳のある空間は「和風」の重要な要素といえます。
フローリングの部屋に、座布団のように小さい琉球畳を部屋の一部分に敷くだけで、部屋の雰囲気はガラッと変わります。しかし、畳はダニの温床になったり、イグサアレルギーなどで、敬遠する方もいるそうです。
畳だけでなく、部屋に障子を取り入れることで和風のテイストが得られる。
「そんな方には、和紙でつくられた畳もあります」と、森村さん。
和紙製の畳は、青々とした商品だけでなく、少し日が当たって焼けてきた感じの商品もあり、部屋の雰囲気に合わせたさまざまなカラーを選択できます。
「価格はイグサの畳と同じぐらいで、衛生的です。ぱっと見、本物と見分けがつかないほどです。ただ、欠点としては、イグサの香りがしないことでしょうか(笑)」
「畳は和風のアイコンのひとつ」という森村さん、和風を演出するのに畳と柱の組み合わせの重要性を指摘します。
それは、室内の柱が見える真壁(しんかべ)があって、より和風のイメージが高まるということです。
「現在は、外壁と内壁で柱を挟む大壁の工法が一般的です。そこで、構造上必要な柱ではなく、ダミーともいえる柱を貼り付けて、より和の雰囲気を醸し出すとことができます。当然、構造物ではありませんから手間もかからず、費用も安くできます」
森村さんは、小物を置くだけで「和」を演出できるといいます。
実際、森村さんの事務所はマンションの一室にありますが、古材屋で見つけてきた古民家の引き戸と一輪挿しで、和のイメージを引き出しています。
森村さんのオフィスに置かれた古い引き戸と清楚な一輪挿し。和のイメージを引き出している。
「注文したら何十万円もかかるようなアイテムも、古材屋や古道具屋で10分の1以下の値段で見つけることもできますし、通販サイトでも、これは使えるという格安の小物もあります。たとえば、小ぶりの屏風があるだけで、部屋の雰囲気ががらっと変わりますよ」
「外との接点である窓を上手に使って、借景をはじめとする外の景色を取り入れることも和を演出できます」
「外と内をつなぐ空間づくりは和の基本」という森村さんも、外の景色を内に取り入れることの大切さを作品にいかしています。
この、外と内の関係については、次回で詳しく紹介します。
(第4回に続く)
森村厚建築設計事務所代表。人気テレビ番組「大改造!!劇的ビフォーアフター」で「和の匠」として登場、和風住宅のみならず、注文住宅、店舗、宿泊施設、集合住宅など、新築、リノベーションを問わず建築に関する設計を行う。和の魅力を発信するかたわら、家の耐震診断や既存住宅状況調査、遵法性調査など調査鑑定業務も。一級建築士。
文◎森田健司
人物・イメージ写真◎平野晋子
写真提供◎森村厚建築設計事務所