住みやすい家を突き詰めると
和風の家になる
「私が家づくりで目指しているのは、ただただ住みやすく、住む人に喜んでもらえる家です。奇抜なデザインでもなく、建築の歴史に名を残したいといった考えもありません。住みやすい家とは何かということを突き詰めていくと、最終的に和風の家にたどり着きます。和風の家は、日本の家の歴史に根ざし、国内各地の様々な気候風土に合わせ、知恵や工夫を積み重ねながら進化、成長してきました。
現代における日本建築は、進化を続けてきた建築の歴史の延長線上にあり、最も居心地のいい建築のはずです。中国や朝鮮半島から渡ってきた文化や技術が日本古来の文化や技術と融合し根付いた場合と異なり、明治時代の洋風建築や一時期流行した輸入住宅は、日本の家の歴史に深い根を生やすことができず、住まいとして万人に広く受け入れられたとは言えませんでした」
和風住宅の特徴でもある畳のない家が増えたのはどういうことでしょうか。森村さんは「畳敷きの部屋では今の暮らし方に合わなくなったからです」と分析します。
森村さんのオフィスはマンションの一室にあるが、窓を大きく開けて眼下に望む広大な国立大学のキャンパスを借景に、季節の移ろいを戸外から取り入れているという。
現在の住宅で柱の見えない大壁(おおかべ)造りが主流となっているのも必然の流れだと、森村さんは続けます。
「例えば、昔の日本の家は柱の見える真壁(しんかべ)造りになっています。真壁造りでは、断熱材が入れにくく、隙間風も生じやすい。ところが現在主流の大壁造りは壁の内部に断熱材を入れやすいので、断熱性能を上げやすいのです」
家はまさに進化し、暮らしに合わせて成長していくもののようです。
外の景色を室内につないでこそ
「和」の魅力は極まる
「家づくりにおいて『和』の神髄とは何かといえば、内と外のつながりだと考えています。『和』は内と外のつながりを求めている。ところが、非常に残念なことに、今の人たちはびっくりするくらい外を見ないのです」
小さな家でも、窓をうまく使って視線を外に向けさせることにより、実際より広く感じさせることができる。外と内の深い関連こそ「和」の真骨頂。
たしかに昼間のオフィスでは、パソコンの画面を見やすくするために窓のブラインドを閉め、夜になり帰宅した家では、カーテンや雨戸で外の景色を目にすることがなくなっています。外の景色によって四季の移ろいを感じたり、漠然と庭を眺めたりといったことが少なくなりました。
「よく、茶室の中は狭くて真っ暗じゃないかという人がいますが、実は内と外のつながりがとてもよく計算されています。茶室に入るまでに露地(ろじ)と呼ばれる庭があり、客が亭主の迎えを腰掛けて待ったり休息したりする場所である待合(まちあい)があります。
通常、円座(イグサを編んだ丸い尻当て)と、たばこ盆が置かれ、寒い季節には手あぶりで暖をとります。このように茶室とは、露地や待合なども含めて付随する空間すべてを指し、一体であるという考え方もあるのです」
日本や中国の伝統的な造園技法に「借景」というものがあります。文字通り景観の借用であり、庭園の構成に背景の景観を一体のものとして取り入れるということです。
「借景は家づくりにも大いに生かせます。狭く小さな家でも、窓をうまく使って視線を外に向けさせることにより、実際の面積より広く感じさせることができます」
外と内の関係を密にしたリフォームの一例。日が当たる部屋はめったに使わない客間に、日常過ごすのは日が届かない続き間の奥の部屋だった。そこで奥の部屋にも日を取り入れるため、内戸をガラスにした。
設計事務所を活用して思い通りの家を
和風住宅は洋風住宅も高いというのは誤解であり、設計士に依頼すると高くつくというのも思い込みかもしれない。心地よい家を建てる費用対効果を一度じっくり考えてみてはいかがだろうか。
「なぜか設計事務所の敷居が高いと感じられる人が多いのですが、もっと気楽に活用してもらえれば、ご自分の思い通りの家がつくれると思います。設計料は家の大きさにより違いますが、一般的には建築費の1割くらいです。終生住むことを考えるとお金をかけるに値するのではないでしょうか」
森村さんはこう言います。
「設計士が予算に応じてさまざまなアイデアをふり絞り、建て主の要望に応えるという点では、和風も洋風も同じ。そう考えれば、必ずしも『和風の家は高い』とは言えないと思います」
心地よい家を建てる費用対効果を、一度じっくり考えてみてはいかがでしょうか。
(第6回に続く)
Desing Style
シンプルで洗練された佇まいを感じさせる空間に伝統的な日本の素材やエッセンスを取り入れたコーディネートです。
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