シリーズ 洋室よりも和室好き![第1回] 私が和室をすすめる理由

和洋の区別がない無国籍デザインを経て「和モダン」へ

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現代の「和室」の象徴となった畳

 現代の和室のルーツは、茶室から住宅様式として広まった数寄屋建築や武家屋敷にあり、明治時代以降の住宅にあるそうです。たとえば、江戸時代には下級武士が長押(なげし)をつけることは禁じられていましたが、明治になって禁が解かれると人々はこぞって長押のある和室をつくりました。

「和」と「洋」の境目がなくなり、核となるデザインを失なったときに登場したのが「和モダン」なのかもしれないという酒井さん。

「『現代の和室とは』という質問ですが、和室の定義があいまいなので、わかりやすいのは畳の敷いてある部屋とイメージしてください。かつて和室は柱の見える真壁(しんかべ)仕様の空間と畳がセットになっており、和室と柱には密接な関係がありました。人の目に触れる柱の節の有無や杢目(もくめ 柾目《まさめ》などの年輪の通りや色合い)が重視されたのです。

 構造が鉄筋コンクリート造のマンションの住まいは柱を見せない大壁(おおかべ)になりますが、その中に和室を作る場合は、大壁に付柱(つけばしら:柱のように見せた装飾材)をつけて真壁の和室を再現していました。

 現在は木造住宅でも柱を見せない大壁仕様が主流となり、柱に対するこだわりも減り、畳の有無が和室と洋室を区別する唯一の要素になっている状態です。さらには和室も畳も不要という家も多くなっているような気がします」

 和室とか和風とは何かという問いがある一方、洋室や洋風とは何かという問いもあります。

「実はこの問いに対する答えも難しく、かつてはみな和風だったので、洋風は和風でないものの総称と捉えることができました。高度経済成長期の1970年くらいまでは、洋風建築のデザインとして縦長窓、木部へのペンキ塗装、軒裏を平らにするなどのわかりやすい特徴がありました。

 ところが、『和』であることが一般的ではなくなると、『洋』も明確ではなくなりました。核となるデザインを失ったのが現在といえるかもしれません。そして、核となるデザインがなくなったときに登場したのが「和モダン」なのかもしれません」

床の間に違い棚、襖など備えた本格的な和室。ここまで完璧でなくても、和の要素を押さえることで和風の雰囲気にすることは案外簡単だという。「北鎌倉の家」昭和初期の和風住宅をリノベーション。撮影◎アトリエR

和モダンは室内外の無国籍化の次の流れ

和モダンリフォームの一例。椅子座のLDKに障子を用いている。一般的な障子よりも少し骨太にすることで、洋間に合う障子となる。

 今、話題になっている建築に昭和期の建築家である谷口吉郎さんのホテルオークラ東京本館メインロビーがあります。

「ホテルという欧米スタイルの宿泊施設(土足・椅子座の空間)を『和』で表現したもの、機能主義、合理主義のモダニズム建築を伝統的な日本の意匠で解釈した作品です。麻の葉や梅鉢の文様、障子といった伝統的な間仕切り装置、光の採り入れ方、材料や触感の生かし方など、多くの素晴らしい特徴があります。

 とりわけ材料の取り扱いにおいて深い美意識を感じさせますが、この作品は『和式』+『モダニズム』の建築で、現在いうところの『和モダン』とは違いますね」

「和モダンは『和式』+『モダニズム』をより広義にとらえたデザインだと思います。高度経済成長期に省いてきた『和』の要素を再び取り入れ、現代的にアレンジするものです。昭和時代の『和』は吟味された材料による職人の手作業が主流だったため、手間と費用のかかるものでした。

 しかし和モダンでは、素材と手作業を合理化することで、『和』のエッセンスを身近なものにしています。洋風化の流れから日本的なものへの回帰といえ、無国籍化した室内外の状況の次の流れとして見ることができます」

 和モダンの住宅は、日本の長い住環境の歴史の中で、日本人に刻まれてきたDNAにフィットする魅力があるのは間違えないところでしょう。全国の駅前がどこも似たような景色、新興住宅地の建物の内外観も同様な時代に、昔ながらの和風の住宅が求められても何ら不思議なことではありません。

「和」にリフォームするときのポイント

マンションのリフォーム例。椅子に座る空間と畳の空間を一体にする場合は、椅子に座ったときの視線と畳に座ったときの視線をできるだけそろえることが基本。そのため、畳を敷く位置を高くし、独立させた。テレビは襖の奥に収納。右側にフラットな床の間に洋紙で装飾。

「例えば、洋室の一部に畳敷きのコーナーをつくる場合には、座布団に座った人と隣り合う洋室の椅子に座った人の目線の高さを揃えるために、畳を床から20cmから30cmあげるとしっくりといきます。窓の高さも重要で、洋室に合わせてしまうと高すぎて圧迫感があるので、座布団に座った時の視線に合わせるようにします。

 畳敷の魅力はなんと言っても、すっきりとした広い部屋で、居間や客間、時には寝室としても使うことができます。そのためには、なるべく家具は置かず、座布団や動かしやすい家具とすることがおすすめです。

 和室の特徴である床の間も形式張ったものでなくでも、季節のものなどを飾れるように、場所を決めておくと良いでしょう。そして、部屋をすっきりとさせるために、近くに収納を計画しておくことも重要です。飾らない部分、余白を残すことにより装飾を引き立てるのも「和」の魅力の一つです。

 和室は元々木材と土壁による空間で、すべて自然素材でつくられていました。「自然素材」という表現自体も自然素材ではない素材が主流になった現在に登場した言葉となります。土、木、紙など自然素材の触感も含めて「和」を楽しんでいただきたいですね」

コンパクトながら、おおらかな間取りで広くのびやかな室内を実現。一階に階段・吹抜け・隠れ部屋をつくり、色々な空間を感じられる。新築なのに懐かしいような雰囲気がある。撮影◎石井雅義

(第2回に続く)

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お話を伺った方

酒井哲さん

タウンファクトリー一級建築士事務所代表。
和風住宅に強く、「持続可能な家造り」を目指し、新築設計から和モダンや耐震・断熱、昭和・大正 レトロ住宅などのリノベーション、メンテナンスまでを手厚くフォロー。地域に眠る歴史文化遺産を発見し、保存し、活用して、地域づくりに活かすヘリテージマネージャーとしても活躍。たましん地域文化財団の「多摩のあゆみ」で建物雑想記を連載中。一級建築士、住宅医。

文◎森田健司 人物写真◎平野晋子 
写真提供◎タウンファクトリー一級建築士事務所

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