シリーズ 洋室よりも和室好き![第2回] 私が和室をすすめる理由

「和風建築は高い」は大きな誤解

空間
リビング・寝室・居室
関心
ライフスタイルリフォーム

そもそも和室って何?
和モダンって何?

「意外に思われるでしょうが、私の考えでは和室が出現したのは明治時代です。明治期は洋風なものをどんどん取り入れ、政府の重要な建物も洋風でつくられました。江戸時代には、座敷があってもそれを和室と意識する人はいなかったでしょう。明治時代になり、和室に対立する洋風、洋室という概念が現れて初めて、和室が出現したといえるのではないでしょうか」

 和モダンは日本人が古来より慣れ親しんできた伝統的な「和」のデザインと、現代風のモダンなデザインを融合させたものといわれます。

森村さんは、伝統的な「和」のデザインと現代風のデザインを融合させたものが「和モダン」と定義。

「純和室には、鴨居(かもい)と敷居(しきい)に付けられた溝により、襖(ふすま)や障子(しょうじ)をスライドさせ、開閉するといった引き戸が主に使われます。こうしたなにげない伝統工法の考え方やテクニックを取り入れつつ、現代の生活に合わせて進化したのが和モダンです。今の暮らしの中では、昔の形をただ踏襲し、全部の部屋が畳敷きである様な純和室は暮らしにくく、現在の主流は当然、和モダンということになります」

 1980年代までは、多くの家で和室をつくるのが当たり前でした。その後、LD(リビング・ダイニング)の横に1部屋だけ和室がつくられるようになり、現在では和室はあまりつくられなくなりました。

「なぜそうなったかといえば、やはり暮らしの変化です。だんだん畳の上に座らず、椅子やソファに座るようになりました。しかし、最近はこの畳が見直されています。洋室にも合わせやすいカラー畳や、イグサにアレルギーを持つ人のために和紙でつくられた畳などバラエティが豊かになり、フローリングの部屋の一部に畳を敷くなど新しい使い方もされています」

“和室は洋室よりお金がかかる”は間違い

新たに本格的な和室をつくろうと思ったら手間もお金もかかるが、現代的な工法で「和風」の部屋を新築やリフォームする分には、予算は同じという。

「昔は子供部屋をつくりたいというのがリフォームの要望として多かったものです。ところが最近では、かつてとは逆に、小さな部屋を繋げて広くしたいという要望が多くなっています。子供は成長すると親と同居せずに独立して暮らすことが多く、かつての子供部屋が余ってしまいます。

 そこで親世代は自分たちの為に小さな部屋を繋げて有効活用するリフォームということになります。車椅子での生活を想定して畳の部屋をフローリングにリフォームするというケースも多いですが、これは和室を嫌っているということではなく、高齢化への対策の一つとして。実際、私の事務所でも和室を望まれる方が多いと思います」

 新築でもリフォームでも和室をつくるほうが洋室をつくるよりお金がかかると思われがちですが、それは間違いのようです。

料理と建築は似ているという。安価な材料でもテクニックで、おいしくもなれば住みやすい家にもなる。

「和室も洋室も同じ費用で同じレベル、同じ雰囲気の部屋がつくれます。ただし、それを実現するためには細かいテクニックを積み重ねることやセンスも必要になります。

 たとえば内装をクロスにする場合、膨大にあるサンプルの中から1種類を選ぶのですが、値段が安ければ安いほど質感がチープになるので選ぶのが難しくなります。建築と料理はとても良く似ています。高価な食材があれば、多くの人がそれなりにおいしい料理をつくることができますが、スーパーで買った安価な食材でも、一流のシェフならテクニックを駆使して驚くほどおいしい料理にすることができるでしょう」

人は今なぜ「和」に惹かれるのか

建築における『和』、和室や和モダンが注目されるのは原点回帰であり、一時の気まぐれな流行ではなさそうだ。

「いきなり感覚的な表現になりますが、今、人は同じようなものばかりの中で暮らし、つまらなくなっている、おもしろくないと感じていると思います」

 たしかに、どの地方に行っても駅前の景色は似ていますし、暮らしぶりもあまり変わりません。経済性を追求し、同じようなものをつくったほうがラクですから、建築もどこに行っても似てきます。

「そんな中、最近の若い人たちは、自分の中からオリジナリティーを引っ張り出そうとしているようです。原点回帰してオリジナリティーを発揮しようとしている。それが世界に出て戦っていく手法でもある。最近話題の米津玄師さんも、『七・七・七・五』の都々逸(どどいつ)を取り込んで作品をつくっているとか。建築における『和』、和室や和モダンが注目されるのも、こうした流れの一つかもしれません」

 外装や内装に瓦や白壁、無垢材、珪藻土を使い、畳に座る文化を意識して、低めのテーブルやソファ、座布団を取り入れる。絨毯やカーテンの代わりに畳や障子、襖を使う。日用品や小物、装飾品も、伝統的な素材や和柄を取り入れる。自然を連想させるアースカラーを使う――このように「和」に惹かれる傾向は一時の気まぐれな流行とはいえないようです。

(第3回に続く)

■ LIXILのおすすめ■

お話を伺った方

森村 厚さん

森村厚建築設計事務所代表。人気テレビ番組「大改造!!劇的ビフォーアフター」で「和の匠」として登場、和風住宅のみならず、注文住宅、店舗、宿泊施設、集合住宅など、新築、リノベーションを問わず建築に関する設計を行う。和の魅力を発信するかたわら、家の耐震診断や既存住宅状況調査、遵法性調査など調査鑑定業務も。一級建築士。

文◎森田健司
人物・イメージ写真◎平野晋子
写真提供◎森村厚建築設計事務所

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)