店名の由来と、
インテリア発想法のつながり
カフェに「松庵文庫」と名付けた背景を知ると、岡崎さんの住まいへの考え方が、深くわかります。
「松庵」は、ここの地名です。岡崎さんはカフェの近くに住み、この土地に住んで10年以上。
「他には引っ越せないくらい、居心地のよい街なんです」と語るほど、愛着をもって暮らしています。
ものを大切に扱い、長く付き合っていく姿勢は、岡崎さんのディスプレイ術に通じるものがあります。
「文庫」の由来について、岡崎さんはこう話します。
「文庫には、知恵が重なっていくという意味もあるそうです。この店が、知恵が共有される場になるように、という思いでつけました。内装をつくる際も、“気づき”を大切にしています」
“見立て”てみると、違う姿に変身させられる
カフェのテーブルは、小学校の図工室で使われていたものや、学習机だったものなど、どれもダイニングテーブルとして売られているものではありませんでした。
「すべてを『マニュアル通り』に揃えると、空間に『余白』が生まれません。そこで、あえて本来の用途ではない使い方をしています。用途を決めつけず、柔軟な視点を持ってものを眺めてみると、違う世界が開けます。やりだすと楽しいですよ」(岡崎さん)
“見立て”の発想は、家具だけでなく、雑貨にも活用できます。
「ガラス製のミルクピッチャーを花瓶にしても、面白いです。ほかにも、うちではコーヒーデカンタに、理科の実験で使うビーカーを使っています。メモリが付いていて、実用的でもあるんですよ」(岡崎さん)
ここで、岡崎さんが“見立て”に目覚めたきっかけについて、聞いてみました。
「収納には限りがあるし、必要以上にものを増やしたくないと思った時、“じゃあ、今、あるものを使いまわせばいい”と気づいたのが出発です」
「例えば、パフェグラスは増やせないから、発想を転換して、手持ちのワイングラスを代わりに使ってみたのです。すると、見慣れたはずのパフェが、いつもと違う趣になったのです。
※季節限定メニューのため、現在は提供がありません。
ドリンク用のカップを、ケーキの容器にしてしまうこともあります。カップにスポンジ生地とクリームを重ねて入れると、層が透けてみえて、かわいいんです。ご家庭にあるコップでも、すぐに試せますよ」
さらに、日々のテーブルセッティングでも、一味違った趣向を凝らすことができます。
たとえば、「小さなタイルは箸置きとしても使える」と、岡崎さんは提案します。
その着想について、「骨董市で古いタイルの欠けらを見つけた時に、『これ、箸置きに使えそう!』と思って試してみたら、その質感と色味が、食卓のよいアクセントになったんです」と、岡崎さんは言います。
松庵文庫のギャラリーショップでは、このように用途が限定されない色とりどりの艶やかなタイルが販売されています。
異素材を組み合わせ、空間に表情をつくる
タイルは、いろいろな用途に使える便利アイテムです。
「大きめサイズのタイルも重宝しますよ。アンティーク製もよいですが、ホームセンターで買える普通のものでもよいです。鍋敷きとしても使えますし、お客さんが来たときには、タイルの上にグラスとお菓子をのせて、お茶請け皿にしても素敵です」(岡崎さん)
加えて、タイルをコースターに見立てた場合、陶器などの似た素材ではなく、ガラスや真鍮など、異質な素材を重ねるアイディアも披露してくれました。エッジが効いて、表情が生まれます。
異素材の組み合わせは、小物から家具まで応用できる手法です。
店内のあちこちに置かれたカゴは、竹、籐、革と、どれも違う素材です。全体を見渡したとき、さまざまな素材が置いてあると、そのテクスチャーの違いから、いきいきとした空間になります。
自宅でこのアイディアを取り入れる場合は、リビングに、周りと違う素材のものをポンと置くだけでも、雰囲気が変わります。
とはいえ、テイストや生産地は統一した方がよいと思う人がいるかもしれません。それもよいのですが、ほどよい“抜け感”を表現するためには、あえて異なるものをつなぎ合わせるのが有効です。
例えば、お香をディスプレイとしてみせたい時に、日本式の道具でそろえるのではなく、インドの真鍮のお盆に刺してみると、ワンランク上のおしゃれな雰囲気に。
カフェの一角に、この技を再現している実例がありました。古道具屋で買った昔ながらのイスに、トルコ製のクッションとブランケットを組み合わせています。古い家具を、モダンな部屋にもなじませる効果もあります。
岡崎さんが、実践する時のコツについて、こう語りかけます。
「足し算と引き算のバランスが大切です。同じ素材やテイストを重ねすぎると、“やりすぎ感”が漂い、甘い空間になってしまいます。引き算の発想をもって部屋づくりをすると、軽やかさやスタイリッシュさが出せますよ」
高低差をつくって、
のっぺりした部屋に立体感を
かといって、ディスプレイを控えすぎると、引っかかりのない空間になってしまいます。
「のっぺりとしがちな部屋の印象を変えるには、高さを意識するのがおすすめです。花瓶は、背の高いものを選ぶとよいですよ。これを飾るだけでも、部屋がダイナミックになります」(岡崎さん)
実際に松庵文庫では、カフェもショップも、随所に「高低差」のノウハウが駆使されています。
例えば、ショップで販売されているランチョンマット。丸めて、革ヒモでまとめ、大ぶりのガラス瓶に立てて差しこんでいます。すぐにマネできそうな、実用と装飾を兼ねたディスプレイ法です。
高低差をつくるには、飾り棚の上に、お盆や木の台を重ねる方法も。その上に、お気に入りの雑貨や食器を飾れば、特別感を演出できます。
また、平坦になりがちな自宅の本棚をカフェ風に変身させるには、本を平置きしたり、立てて置いたりと、置き方に角度をつけて組み合わせるのも手です。リズムが生まれ、あか抜けてみえます。
最後に、その審美眼と創造力をもてるようになるには、どうすればよいのか、うかがいました。
「ひらめきが生まれるのは、骨董市や雑貨店で、ものに触れ合う瞬間です。好奇心をもって、情報を集めて、マネしたい事例をたくさん蓄えていくなかで、センスが磨かれていくのではないかと思います」
普段、カフェで過ごす時も、視野を広げて、インテリアに目配りしてみると、暮らしに生きるヒントが隠れています。
今回は、バランスよく家具・小物を組み合わせる編集力や、クリエイティブに部屋を飾る柔軟な発想力の楽しさを学ぶことができました。
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