住まいのヒントが盛りだくさん!! 連載「名物カフェのインテリア哲学」

懐かしいけど、スタイリッシュ! 古民家カフェ「松庵文庫」の内装づくり[前編]

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おしゃれなカフェには、自宅でもマネしたいインテリアのヒントがあふれています。素敵なカフェ空間をつくりだしたオーナーに、そのノウハウを徹底的に聞きこむ当連載。第1回は、レトロさと洗練さを兼ね備えた「松庵文庫」を創業した、岡崎友美さんにお話をうかがいました。

居心地のよいインテリアづくりに迫る

 東京都杉並区の古民家カフェ「松庵文庫」は、洗練されていながら、心がホッと落ち着く空間が魅力。この雰囲気を味わうため遠くから足を運ぶお客さんもいる、人気店です。オーナー岡崎友美さんは、築80年の一軒家を、おしゃれなカフェに蘇らせたインテリアの達人です。

 岡崎さんの空間づくりを深掘りしていくと、マンション住まいの方も活かせる「家具・小物のコーディネート術」などの暮らしのヒントを発見できます。

 そのヒントは、アプローチからもうかがうことができます。
 場所は、最寄りの中央線・西荻窪駅から徒歩7分。閑静な住宅地の中にあって、もちの木などの植物に包まれた佇まいは、「便利さとはほどよく距離を置いたほうが、暮らしは豊かになるのかも」と、気づかせてくれます。

 外壁は、墨色を基調とし、屋根瓦はレンガ色。外観からもレトロな雰囲気が漂い、どんな店内かワクワクします。
 扉を開けると、土間の“つくばい”が目に入ります。葉をつけた金柑が水に浮かび、風流です。靴を脱いで上がると、岡崎さんが笑顔で出迎えてくれました。

 早速、このディスプレイの効果について尋ねると、「お客さんが足を踏み入れたその瞬間に、『家ではなく、カフェに来たんだ』という非日常感を味わっていただこうと思ったんです」と、答えてくれました。

 こうした演出は、広々とした土間がなくても採り入れることができます。
 例えば、シューズラックの上に、水をはった深皿を置き、季節の花を一輪浮かべるだけで、殺風景になりがちな玄関が、ポッと華やぐのです。

 入ってすぐ左手の部屋は、ギャラリーショップです。
 陶器の皿、ガラスのコップ、籐のバスケット、キャンドルなどの雑貨や、無添加の出汁パック、果汁100%のりんごジュースなどの食品が丁寧に並べられています。
 岡崎さんが、「製作者のこだわりに共鳴して、ちょっと背伸びしても使ってみたい品」をセレクトしています。

 ディプレイ棚は、足場板(工事現場の足場として使われた木材)と、アイアンの棚受け金具という、異素材の組み合わせです。
「古材で温かみを持たせつつ、鉄のシャープさで引き締め、ガーリーになりすぎないように、常にバランスを意識しています」(岡崎さん)
 鉄の金具でも、細く、曲線的なデザインなので武骨にならず、女性らしい空間にまとまっています。

 ギャラリーショップを出て奥に進むと、ナチュラルで心地よい雰囲気のカフェスペースが広がります。本を読みながら、ゆったりとしたひと時を過ごせそうなインテリアです。
 この空間にいると心が落ち着くのは、床や家具に天然木のブラウン、壁面に清涼な白という、やさしい色の組み合わせにありそうです。

 素材づかいも工夫されています。
 店内には、木製のテーブル、えんじ色の革ソファなど、さまざまな素材と形のテーブルセットが、絶妙な距離感で配置されています。
 その奥に広がる庭には、つつじが一本、のびやかに立っています。実は、この木との出会いが、カフェを開くきっかけだったのです。

つつじを受け継ぐ、開店までのストーリー

 ガラス戸越しのつつじを背景に、岡崎さん(写真)は、お店を開く経緯について、こう語ってくれました。
「ここはもともと音楽家ご夫婦のお家だったんです。ご主人が亡くなった後、売却の内覧チラシが入っていて、見に行きました。庭先の樹齢100年のつつじを見て、『新しいオーナーに切られたらかわいそう』と感じて。それに、この家が取り壊されて、更地になって、画一的な家が数軒立ち並ぶ姿を見たくなかったんです」

「当初はシェアハウスにすることも考えたのですが、この空間をそのまま生かせるカフェにして、受け継いでいく決心をしました。それまで専業主婦で、カフェ運営の経験がない中の出発だったので、実をいうと、不安で眠れない日が続いたんですよ」

 このような空間をつくれるからには、インテリアやデザインについて学んだことがあるかと思ったのですが、「まったくの素人」との返答が。

「でも、前から、インテリア雑誌を眺めたり、古道具屋さんを巡ったりするのが好きでした。カフェの内装は、見よう見まねですが、今まで蓄積してきた情報や、自分なりのアイディアを盛り込みました。お客さんから、『おばあちゃん家に来たみたいで、ホッとする』『マネしたい』と、声をかけてもらえることもあります」(岡崎さん)

古いものも、アレンジ次第でおしゃれに

 店内はリノベーションが施されていますが、「あるものはできるだけ、そのまま生かしたい」という岡崎さんの思いから、柱や天井などは以前の姿のままです。

 古いけれどよいものを継承する考えは、カフェの細部まで貫かれています。例えば、家具の選び方。どの家具も、経年変化による味わいが醸しだされています。どこのアンティークショップで買ったのか聞いてみると、意外な答えが返ってきました。

「鎌倉の古道具屋さんで買ったものもありますが、ソファや、ディスプレイ棚として使っているミシン台とスピーカーは、おばあちゃんの家にあったものなんですよ。小さい頃、おばあちゃんが、手作りの洋服をつくってくれたり、思い出が詰まったミシンです」(岡崎さん)

 気がかりなのは、時代遅れにみえる家具が、今の部屋になじむかどうか、ということ。
 ところが、「ちょっと見せ方を変えるだけで、ホコリをかぶった家具や小物も、おしゃれに生き返らせることができます」と、岡崎さん。

 例えば、ミシン台の上に、縦に長い陶器の花瓶にドライフラワーを活け、本は立ててディスプレイするだけで、立体感が出て、いきいきとした印象に変身します。
 また、ヨーロピアンな小物を飾ることで、洗練された雰囲気になります。

 岡崎さんは、こう続けます。
「おばあちゃん家は、宝の山です。お客さんが店内をみて、『そっか、こういう風に使えばよかったのね』という声を聞きます。捨ててしまうのは、もったいない」

 他には、海岸に転がっていた木の棒を、麻ヒモでくくってつるし、傘立てに変身させるアイディアも教えてくれました。
 “普段、素通りしてしまうものも、新鮮な目で見直してみると、新しい使い道を発掘できる”と、ここにいると気づかせてもらえます。

一体感をもたせるための、色の取り入れ方

 アンティーク家具・小物を、現代的な空間と調和させるヒントが、「松庵文庫」にあふれています。
 まず、色を統一することです。そうすると、「古いものだけ浮いてしまう」ことが起こりにくいのです。

 岡崎さんの祖父母から譲り受けたソファと、ショップで購入したトルコ製の柄物クッションをあわせた実例を見ていきましょう。

「このソファに座布団や和風のクッションを置くと、レトロすぎて、やりすぎ感が出てしまいます。そこで、あえて異国のテイストを組み合わせて『外す』ことにしました。かといって、外しすぎるとチグハグしてしまう。そこで、色調が似ている生地を選び、統一感を保てるようにしました」(岡崎さん)

 一体感を保ちつつ、ボヤッとした印象を避けるには、「差し色」もポイントだと言います。
 松庵文庫の場合、白とブラウンを基調としながら、シャビーなブルーグレイをところどころに取り入れることで、全体を引き締め、個性ある空間に仕立てています。

 カフェスペースで「差し色」となっているのが、キッチン棚の枠や、個室風に囲われたスペースの柱、ヴィンテージの本棚、テーブルセットなどです。
 全体にまんべんなく、ちょこっとずつ配色するのが、おしゃれに見える秘訣です。単色で部屋を固めてしまうと、平凡で単調とした印象になりかねませんが、違った色相を少し差し込むと、スタイリッシュな空間をつくれるのです。

 今回は、内装や家具のアレンジ術を中心にみてきました。次回は、すぐにマネできる雑貨や小物のディスプレイ術を紹介していきます。

お話を伺った方

岡崎友美さん

ギャラリー&ブックカフェ「松庵文庫」のオーナー
築80年の古民家をリノベーションしたカフェを2013年にオープン。店内には、こだわりの雑貨や食品をそろえたショップも併設。「金継ぎ教室」などのイベントも不定期で行う。

松庵文庫(しょうあんぶんこ)
東京都杉並区松庵 3-12-22
http://shouanbunko.com/

文◎井口理恵 撮影◎平野晋子

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