断熱&気密 大解剖[第5回]

健康的で安心安全な家は、暖冷房効果も高く光熱費が抑えられます

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「寒くて暑い家」は
ヒートショックを引き起こす危険な環境

 リフォームで住宅を断熱化、気密化するのは、新築住宅の断熱化、気密化よりも難しいことです。それでも今の家にずっと住み続けるなら、前先生は、リフォームで断熱化、気密化することをおすすめしています。

「住宅の断熱化、気密化は、省エネ化の問題であると同時に、何よりもまず人の安全と健康の、特に高齢者にとっては生死に関わる問題です。なぜなら、断熱化、気密化されていない『寒くて暑い』住宅は、家の中なのにヒートショックや低体温症、熱射病を招いてしまうからです」

 ヒートショックとは、血圧の急変動に伴うさまざまな症状のことで、建物内で部屋ごとの温度差が大きいことが大きな原因だとされています。ヒートショックが特に起こりやすいのは浴室で、2015年には全国で4804人が命を落としています。しかも、その90%が65歳以上です。

 断熱化と気密化が十分でない「冬寒くて夏暑い」家のままだと、冬には暖房している居室と廊下や水回りの温度差が非常に大きくなります。暖房が効いたリビングルームから、暖房のないトイレや脱衣所、玄関などに移動する中で、ヒートショックのリスクが非常に高くなってしまうのです。

 冬にヒートショックが起こる家は、夏に家の中で熱中症になりやすい家でもあります。「気密性が低い=通気性が高い」から夏は大丈夫、と思われるかもしれません。しかしそれは、冷房しても冷房しても冷気が外に逃げてしまうことになります。そのためにも気密化が必要なのです。また、特に天井の断熱が不足していると、夏の強烈な日射で高温になった屋根の熱が室内にそのまま流入してしまうため、特に2階が非常に暑くなってしまいます。夏は2階が暑くて寝れないという苦情はよく聞きますよね。

 同時に断熱化して、家の外から中に侵入する熱をブロックすることで、はじめて冷房が効く状態になります。夏のためにも断熱化、気密化は不可欠なのです。

「断熱化と気密化という言葉、そもそも建物に性能があるという事実を、ほとんどの人がご存知ない。この現状では、その必要性を理解していただくことは難しいと思います。でもヒートショックという言葉とその危険性は、私の調査では90%以上の方がご存知です。生命と健康を守る安全対策として、リフォームによる断熱化、気密化を考えていただきたいのです」と、前先生はアドバイスします。

 断熱化、気密化のメリットは「安全」ばかりではありません。暖房や冷房が効率良く行えるようになります。これまではエアコンなどの空調機器をつけっぱなしにしても温度維持が難しかったのに、短時間運転するだけで家の中が快適になります。
 その結果、冷暖房費も少なくて済みまし、結露や住宅アレルギーの問題に対しても、断熱化、気密化は根本的な解決策になります。

リーズナブルなリフォームの選択を

 知れば知るほど、いいことずくめの断熱化、気密化。では、リフォームで家を断熱化、気密化する場合、何を基準にすればいいのでしょうか?

「断熱化、気密化のレベルを上げるためには、工事が大掛かりになり費用もかさむのも事実。リフォームの資金には限りがあり、できるだけお金をかけたくないというのが、皆さんの本音でしょう。断熱化と気密化は、費用と効果のバランスを考えて行うことが大切です」

 新築の時には断熱や気密をまとめて確保することが容易であり、国の省エネ基準である断熱等級4はすでに当たり前となっており、より高い断熱レベルも様々な団体から提案されており、「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」HEAT20で提案されている、G1/G2が有名です。一方で、人が住んでいる既存住宅のリフォームでは、コストや手間を見極めて、効果的な断熱リフォームを行う必要があります。
 そこで参考になるのが、暮らし創造研究会で発行された「健康で快適な暮らしのためのリフォーム読本」です。前真之研究室で内容の監修を行っており、現在は試作版が研究室ホームページで公開されています。

「リフォーム経験者へのWEBアンケート調査からは、「費用の高さ」「工事中の仮住まい」「仕上がりの不安」がリフォームの障害となっていることが分かりました。そこでリフォーム読本においては、この3つの不安を解消できるように、リーズナブルなコストで居ながら工事が可能、しかも絶対に暖かいプランを考えました」

「熱が逃げやすい一番の部位は窓なので、真っ先に対策が必要です。プラン1では1階に内窓を取り付けるだけなので、低コストで非常にお手軽です。プラン2では、床裏から居ながら工事で床を断熱し、その床上に床暖房を載せるので、少ない暖房費で足元から暖かく過ごせるのでおススメです」

「2階が使いたい人は、2階の内窓追加と天井まで断熱するプラン3がおすすめです。プラン4では壁も断熱していますが、工事が大変になるので内外装改修や耐震補強と併せて行うとよいでしょう」

「プラン1、プラン2なら、住み続けながら工事することが十分に可能です。上手にやればプラン3でも居ながら工事は可能です。専門家と一緒に家族で相談して最適なリフォームを検討してください」

断熱化と気密化の
リフォームの効果が体感できる

 リフォームで断熱だ、気密だと言われても、なかなか実感できず、お金をかける動機にはなりにくいかもしれません。ならば、体験してみるのはいかがでしょうか。
実は、東京・新宿にあるLIXILLのショールーム内にある「住まいStudio」で、高性能住宅の実力を実際に体験することができるのです。

 ここは前先生が監修しており、東京に続き、近々、大阪のショールームでも体験できるようになるそうです。

 この中の「Studio‐冬‐」では、冬の外気温を想定した空間内に、1980年の「昔の家」と、2016年の「今の家」、そしてHEAT20 G2の「これからの家」、そして「断熱リフォーム」、計4つのブースで温熱環境の違いを体験することが可能です。

左から「これからの家」「今の家」「昔の家」の構造を説明するカットモデル。

 そのほか、窓による温度の違いも一目瞭然の「Studio‐窓‐」というエリアや、猛暑における断熱化、気密化の効果も体感できる「Studio‐夏‐」エリアもあり、真夏の強い日差しをリビングに再現。屋根・天井の断熱の差による快適性の違いを、日差し対策やその効果をサーモグラフや身体で実感できます。

「冬は窓から室内の熱の約6割が外に出てしまいますが、夏は窓から熱の約7割が侵入してきてしまいます。夏の室内を快適にするためにも、断熱化と気密化は欠かせないものなのです。まずは、窓を3重ガラスのハイブリッド(アルミ+樹脂)素材に断熱化、気密化することでしょう。これが、最も少ない費用で最も効果がある、リフォームでも一番効率の良い賢い方法です。ここでその効果をぜひ体感してください」と前先生。

 快適な健康住宅にリフォームしたいと思ったら、まずは予約して、最新の機能を体験してみてはいかがでしょうか。

設備紹介

住まいStudio紹介V T R(Youtube)

www.youtube.com/watch?v=cGweXYm9ai8

LIXLI快適暮らし体験「住まいStudio」

www.lixil.co.jp/s/sumai_studio/

〒160‐6107 東京都新宿区西新宿8-17-1 住友不動産新宿グランドタワー7階
営業時間/10:00~17:00 休館日/毎週水曜日(祝祭日の場合は営業)、夏期、年末年始 完全予約制で土日はHPから、平日は工務店、ビルダー等を通じて予約が必要。
見学時間/90分(コース制)ネット予約は以下のサイトの専用フォームから

お話を伺った方

前 真之(まえ・まさゆき)さん

東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 准教授。工学博士、一級建築士。
建築環境工学の第一人者で、住宅のエネルギー消費全般を研究のテーマに、暖房や給湯にエネルギーを使わない無暖房・無給湯という省エネで高い快適性の住宅の開発に注力している。

文◎渋谷康人 撮影◎末松正義

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)