断熱&気密 大解剖[第3回]

底冷えよ、さようなら! 古民家リノベに学ぶ「あったか住まい」

空間
リビング・寝室・居室

「エコハウス・アワード 2019」
リノベーション賞を受賞!

 東野唯史さん・華南子さん夫妻が移り住んだ諏訪市の標高は759m。冬場の朝夕の冷え込みが厳しく、時にはマイナス20℃まで下がることもあります。朝起きたらテーブルの上に置いたコップの水が凍っている。そんなことも珍しくない、寒い土地です。

「新築でも日本の住宅の省エネ性能は、決して良いとは言えません。『リノベーションしても古民家は寒くて暑い』というのが、建築業界の常識。そんなところに住んでいるのは、『物好きな人だけだ』と言う人もいるくらいです」と、東野さん。

「基本設計・断熱設計・解体・仕上げは自分たちで、実施設計・耐震改修・断熱改修などの下地工事は地元諏訪の工務店さんと協働で行いました。下地材には長野県産材を使用し、仕上げ材にはこの建物から出た古材を再利用しフローリングに、壁には近郊の解体現場からレスキューした土壁の土を漆喰(しっくい)と混ぜて塗りました。リノベーションなのでもちろん躯体も全て再利用しています」

増築された古民家を購入。家の一部は明治に作られたもの。写真はリフォーム前。

リフォームを開始したところ。躯体はそのまま活用。

家屋の半分をゾーン断熱と
気密構造にして快適に

 南向きで日当たりが良好とはいえ、決して良いといえる状態ではなかったそうです。物件の広さは約180平米もありました。

「私たち夫婦2人が住むのには広すぎるので、半分の約90平米で区切る『ゾーン断熱』を行いました」

 断熱では3種類の断熱材を使用。施工する場所に応じて、使い分けています。

「断熱材にはさまざまな種類があります。施工する場所に合わせて、最適なものを選びました。床や外壁には断熱性能が高い『ネオマフォーム』を。壁には『セルロースファイバー』を。そして天井には高い断熱効果があって吹付けて施工できる『アクアフォームneo』を選びました。基本的には物件に合ったものを選べば良いと思います」

外壁の断熱も欠かせない工程。

 断熱とともに通気させることも、結露対策のためには欠かせません。その点も、設計段階から検討を重ねて施工する資材や施工方法を決定したそうです。

 ところで、壁や床や天井の断熱材と同じように、住宅の高い断熱性・気密性を確保するために重要なのが、引き戸や窓にどのようなサッシを使うか、です。かつての住宅では、窓のサッシといえばアルミ製。寒冷地に限って、二重サッシが使われていました。しかしアルミ製は熱伝導率が高いため、たとえ二重構造でも、サッシから膨大な熱が出入りしてしまいます。

 

これは天井の通気性を確保するためのスペーサーを施工しているところ。

断熱材を吹き付けた後、天井の仕上げ。

最新の3重式樹脂製のサッシを窓に採用した。

 実は窓は壁以上に断熱性能が低いもの。ガラスの表面やアルミの枠を通じて、冬は膨大な熱が室外に逃げ、夏は熱が室内に侵入しているのです。採光を重視した大きな窓のある住宅や、窓の数が多い住宅では、このエネルギーロスが最大な問題だと断言する専門家もいるほどです。

 そのため海外では、住宅のエネルギー効率を向上させるため、窓へのアルミ製サッシの使用を禁止し、熱伝導性の低い樹脂性や木製に。それも二重か三重構造で、ガラスの間にアルゴンなどの不活性ガスを注入し、日射熱を採り入れると同時に、断熱性を高めたものが採用されるようになっています。

 東野さんの「リビセンエコハウス」でも、こうした最新の樹脂製のサッシを窓に採用。ドアにもやはり断熱性能に優れたものを採用しています。

室内の暖気冷機を屋外に逃がさなよう換気扇は熱交換器機能付きを採用。

 また、住宅には換気が不可欠ですが、ふつうの換気扇はアルミ製サッシと同様に熱の出入りが大きいため、住宅の断熱性能を向上させるためには、換気扇も熱交換器の付いたタイプにすることが必要です。
 リビセンエコハウスでも、換気扇にはこの熱交換器機能付きを採用しています。

 こうした設計、工夫の結果、古民家のリノベーションした物件としては異例の「年間暖房需要42.23kWh/m2」という省エネ性能を実現することができ、パッシブハウス・ジャパンが主催する「エコハウス・アワード 2019」リノベーション賞に輝いたのです。

期待以上の快適さに本人も驚き

 完成後、「リビセンエコハウス」と名付けた自宅の住み心地は、どのようなものでしょうか?

「以前は築20数年の住宅に住んでいましたが、そのときとは比べものにならないほど快適です。『快適とは不感である』という名言が住宅建設の世界にはありますが、まさにそれを体現している感じです。

 築2年の建物と比べても暖かいですし、自然素材を活用したことで気持ち良く、開口部からの景色の良さ、明るさなど、どれを取っても最高です。育児中の妻も、日々さまざまなタイミングでその快適さを実感しているようです」

 古い住宅でも、断熱化、気密化をしっかりと行った省エネ住宅にリノベーションすることで、「寒さや暑さは我慢するもの」だった家も一変、驚くほど快適になる。冷暖房にかかる費用も激減すると、東野さんは語ります。
 また高齢者には死の危険に直結するヒートショックの問題も解決できます。

「今の日本の住宅環境、住宅の断熱化、気密化、省エネルギー化は、先進国であるドイツや北欧どころか、お隣の中国や韓国にも遅れを取っているという情況です。これを知ったときは衝撃でした。住宅の断熱化や気密化というのは、国が基準を定め、義務づけるほど大切なことだという認識が、いまや世界常識なんですね」

計算上ではわかってはいたが、実際に住んでみると想像以上に快適と東野さん。

 東野さんはさらに、「住宅とは、世代を超えて長期間住み続けるものとう視点でとらえてほしい」とも言います。

「断熱化や気密化は、新築でもリノベーションでも一見『お金がかかる』ので、後回しにされがちです。しかし、一度やってしまえば見違えるほど快適になりますし、長期的な視点で考えると、結局は、光熱費の節約にもなります。そのことを、ひとりでも多くの人に理解してほしいと思います」

 次回は、省エネ住宅(エコハウス)を研究し、一般住宅の断熱化・気密化の専門家でもある東京大学大学院の前真之(まえ・まさゆき)准教授に、住宅の断熱化・気密化が必要な理由と、基本的な考え方を伺っていきます。

(第4回に続く)

お話を伺った方

東野 唯史(あずの ただふみ)さん

空間デザイナー、株式会社リビルディングセンタージャパン 代表取締役。
1984年生まれ。2014年に空間デザインユニット「medicala」を奥様の華南子さんと立ち上げ、2016年に古民家を解体した時に出る古材活用のリサイクルショップ「リビルディングセンタージャパン」を長野県諏訪市に設立。自宅は古民家を諏訪市の空き家バンクから購入しリフォーム、徹底的な断熱処理を施した健康住宅を実現した。

文◎渋谷康人 撮影◎末松正義
取材協力◎リビルディングセンタージャパン http://rebuildingcenter.jp/

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