断熱&気密 大解剖[第2回]

理想は「魔法瓶のような家」。家計にも優しい省エネハウス

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季節悩みリフォーム事例

超・省エネ住宅「パッシブハウス」との出合い

自宅リフォームについて語る東野唯史さん。

 日本の住宅はなぜ「冬は寒くて夏は暑い」のでしょうか。そして、どうすればこの問題を解決できるのでしょうか。

 中古住宅をリノベーションして安全で快適な住宅を作ることにした空間デザイナー「リビルディングセンタージャパン」の東野唯史さんは、ドイツの「パッシブハウス」という概念に出会いました。
 そして、この基準に合ったリフォームによる家づくりに取り組んだのです。

「パッシブハウスとは、ドイツのパッシブハウス研究所が規定する性能認定基準を満たす、高断熱・高気密な省エネ住宅のこと。日本にもパッシブハウス・ジャパンという組織があり、2019年3月から、この省エネルギー基準に適合した住宅かどうかの認定を行っています」

外気温がマイナス20℃でも
わずかな暖房で快適に!

日中はストーブいらず。小さな薪ストーブ1つで厳寒の諏訪の冬を余裕で乗り切れるという。

断熱と気密を重視したリフォームの記録は本にまとめられている。

 パッシブ(受動的)と名付けられた理由は、すぐれた断熱・気密性能を実現することで、アクティブな(=熱を発する)暖房器具が不要だということから。日本でも、2010年に設立された一般社団法人パッシブハウス・ジャパンを中心に、徐々にこの基準に基づいた家づくりが始まっています。

 パッシブハウス・ジャパンでは、「パッシブハウス」を、「断熱材や高性能な窓、熱ロスの少ない換気システムなどを駆使して、寒さや暑さをガマンしない、快適さを生み出す家」と定義しています。

 具体的な性能基準は、1平米あたりの1年間のエネルギー量(kwh/m2)などで定義されていますが、一言でいえば「高い断熱性と気密性を確保することで、寒くなく、暑くない家」と考えればいいでしょう。パッシブハウス・ジャパンではこれを「魔法瓶のような家」と表現しています。

 ただこの基準は、この連載の後で触れますが、日本の建築基準法が定める基準とは比較にならないほど格段に高いレベルのものになっています。

 断熱性、気密性を高めると、冬でも室内の熱が室外に逃げにくくなります。そして夏場は、室外の熱が室内に侵入しにくくなります。また、適切な空調設計、空気の循環を確保することで、室内の温度ムラも軽減されます。さらに、結露することもなくなるので、建物も長持ちするし、カビやダニの発生も抑えられるので、アレルギー症状になる可能性も減ります。つまり、住宅の断熱性、気密性を高めることは、光熱費が減り、建物の寿命も延び、住む人も健康になると、良いことずくめです。

 東野さんは自宅となる中古住宅のリフォームで、まずこの「住宅の断熱化・気密化」つまり「住宅の省エネルギー化」に取り組みました。

我慢しないで暮らせる住宅を実現

「日本の一般的な住宅の省エネは、昔から『ガマンする』ことが基本でした。だから、家の中が寒いのは当たり前だったのです。でも、安全や健康を考えると、この常識を変えなければいけないと思います。ドイツの不動産の法律では、生活空間の夜間の温度が18℃以下になるような部屋は貸してはいけないことになっているそうですよ」と、東野さんは指摘します。

 東野邸のリフォームでは、
「床、壁、天井に、種類の異なる断熱材を使い分ける」
「断熱性能に優れた3重構造の樹脂サッシを採用する」
「熱交換器付きの換気扇を使う」
 など、さまざまな工夫で、リノベーション住宅としてはトップクラスの優れた断熱性、気密性を実現しています。

 最終的にはどのような仕上がりになり、どのくらい快適なのでしょうか。
 次回はパッシブハウス・ジャパンが主催する「エコハウス・アワード 2019」で「リノベーション賞」に輝いたこの住宅と、その具体的な工夫や住み心地についてご紹介します。

(第3回に続く)

お話を伺った方

東野 唯史(あずの ただふみ)さん

空間デザイナー、株式会社リビルディングセンタージャパン 代表取締役。
1984年生まれ。2014年に空間デザインユニット「medicala」を奥様の華南子さんと立ち上げ、2016年に古民家を解体した時に出る古材活用のリサイクルショップ「リビルディングセンタージャパン」を長野県諏訪市に設立。自宅は古民家を諏訪市の空き家バンクから購入しリフォーム、徹底的な断熱処理を施した健康住宅を実現した。

文◎渋谷康人 撮影◎末松正義
取材協力◎リビルディングセンタージャパン http://rebuildingcenter.jp/

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