断熱&気密 大解剖[第1回]

冬は寒く、夏は暑い……。日本の家はなぜ「不快」なのか

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季節悩みリフォーム事例

廃材や古道具を再生し本来の価値を取り戻す

 特集の最初にまずご登場いただくのは、長野県諏訪市にある「リビルディング センター ジャパン」(以下リビセン)の東野唯史(あずの・ただふみ)さん。

古材屋の主人にして空間デザイナーの東野唯史さんが快適な住まいを目指して古民家の自宅をリフォーム。

「家のつくり方、つかい方、なくなり方、を新しくする」をコンセプトに掲げ、古材と古道具を販売している建築建材のリサイクルショップの代表取締役です。

 東野さんは名古屋市立大学生活環境デザイン学科(現・建築都市デザイン学科)で学び、空間デザイン会社を経て、フリーの空間デザイナーとして数々の大規模なプロジェクトを成功させてきた人。
 2014年には奥様の華南子さんと空間デザインユニット「medicala(メヂカラ)」を設立。そして2016年、長野県諏訪市にこの「リビセン」を創業しました。

 リビセンには、日本全国から廃材や古道具が集まってきます。従来なら、解体される段階で捨てられてしまった家屋や工場の廃材や古い家具や道具。東野さんたちのこの店では、そんな廃材や古道具を引き取っています。車で1時間以内の場所なら、ボランティアスタッフとともに現場に出向いて引き取ることもしています。「リビセン」では、このように廃材や古道具を引き取ることを「レスキュー」と呼んでいます。

店内にカフェも併設。おいしいと評判で、地元のみならず県外からもリピーターが訪れる人気ぶり。そのまかないの様子はNHK「サラメシ」でも紹介されたほど。

ただ古材を売るだけでなく家具に加工し販売も行う。実際に家具作りなどが体験できるワークショップも開催される。

「リビルディングセンタージャパン」という会社名は、東野さん夫婦が新婚旅行で訪れたアメリカ・オレゴン州ポートランドにある同名の施設から。東野さんたちは、あらゆる古材や古道具が揃い、来店した人々が楽しそうに廃材を選んで購入し、自分たちの建築に活かしていく店のやり方に、感銘を受けたといいます。

「日本にもこうした仕組みや店が必要だ」
 そう確信した東野さんたちは、ポートランドの店に「リビルティングセンター」という名前やロゴマークを使わせてほしいというメールを送り、すぐにOKをもらいます。そして、クラウドファンディングで400人以上の協力を得て、「リビセン」をオープンしたのです。

 東野さんは言います。
「これまではただ捨てられるだけ、ゴミになるだけだった廃材や古道具をレスキューし、その本来の価値を再認識してもらい、商品として循環させることで、ゴミや輸送コストを減らし、環境負荷を減らすことができます。捨てられていくものや忘れられていく文化を見つめ直し、再び誰かの生活を豊かにする仕組みをつくっていきたいと思います」

冬は寒く、夏は暑い日本の住宅を変える

 東野さんは帰国後、長野県諏訪市に移住し、そこで「リビセン」を立ち上げました。
 諏訪市は標高759m。諏訪盆地の中央にあり、冬場の朝夕の冷え込みは厳しく、マイナス10℃以下まで下がることもあります。諏訪湖が全面結氷すると、その冷却効果でマイナス20℃近くになることも珍しくありません。

完成したエコハウス。厳しい諏訪の冬も小さなストーブで快適だという。

 冬期は水道が凍り付かないように、水を流したままにしておくのは当たり前。朝起きたらテーブルの上に置いたコップの水が凍っています。

 東野さんは、市の空き家バンクに登録されていた土地付きの古民家を手に入れて、「リビセン」の店舗として再生することにしました。そこで、日本の住宅――中でもリノベーション住宅――が抱える大きな問題に直面することになります。

「日本の三大随筆のひとつで、14世紀半ばにまとめられた吉田兼好の『徒然草』に『家のつくりやうは、夏をむねとすべし』とあるように、日本の家は夏を基準に建てられてきました。だから、冬は寒いのが当たり前だったのです。

 そして、土壁の時代はまだ良かったのでしょうが、昭和の時代になって土壁が使われなくなりトタン屋根が普及すると、日本の住宅はさらに劣化します。冬は寒いまま、そして夏は昔よりも暑いものになったのでは」と、東野さんは言います。

「古民家は寒くて暑い。そんなところに住むのは『物好きな人』だけでした。しかし、寒くて暑い家は健康にも悪く、ヒートショックが原因で亡くなる方が増えて、大きな社会問題にもなっています」

夏涼しく冬暖かい東野さん宅。古民家は寒いの常識を断熱&機密リフォームで打ち破った。

 暖かい居間から、トイレなど寒い空間に移動することで起きる急激な血圧の変化。これがヒートショックです。失神や心筋梗塞、脳梗塞などの深刻な疾病を引き起こし、死に至ることも珍しくありません。

 特に高齢者に、中でも入浴時に起きることが多く、日本医師会のデータでは、入浴時だけでも年間約1万4000人が亡くなっているそう。
しかも高齢化もあり、ヒートショックで亡くなる人は急速に増えています。

 かねてから、土地付きの古民家をリフォームして住むことを考えていたという東野さん。諏訪市でこの家を手に入れた東野さんは、自宅としてリノベーションしながら、「寒くて暑い問題」の解決に取り組んでいくこととなります。

(第2回に続く)

お話を伺った方

東野 唯史(あずの ただふみ)さん

空間デザイナー、株式会社リビルディングセンタージャパン 代表取締役。
1984年生まれ。2014年に空間デザインユニット「medicala」を奥様の華南子さんと立ち上げ、2016年に古民家を解体した時に出る古材活用のリサイクルショップ「リビルディングセンタージャパン」を長野県諏訪市に設立。自宅は古民家を諏訪市の空き家バンクから購入しリフォーム、徹底的な断熱処理を施した健康住宅を実現した。

文◎渋谷康人 撮影◎末松正義
取材協力◎リビルディングセンタージャパン http://rebuildingcenter.jp/

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