[シリーズ 男のリフォーム] 夢の「書斎」は譲れない 第1回

なぜ妻は男の居場所「書斎」の計画を却下するのか

空間
リビング・寝室・居室
関心
ライフスタイルリフォームファミリー

家を建てるとき。あるいは、リフォームをするとき。男性が一番「作りたい」と思っているのは、一人になれる自分だけの空間「書斎」だそうです。けれど、真っ先に削られてしまうのもまた書斎。新築の時、リフォームの時、小さくても自分だけの書斎をつくるにはどうしたらいいか、フリーダムアーキテクツデザインの設計者・齊藤裕幸さんにお話をうかがいます。
一回目は、「書斎を作りたいという提案が却下されてしまう事情」について。

説得力に欠ける提案をしていないか

 家を建てる。まさに一生に一度か二度の大きな決断です。リフォームも同じ、大きな金額のお金を使って、自分たちの望む住まいに変えていくのです。どなたも大きな夢と希望を持って家族会議をし、設計者との打ち合わせに望みます。

作品を紹介しながらコンセプトを説明する齊藤裕幸さん。新築、リフォームともに入念な打ち合わせを行う。

 けれど、気がついてみたら、自分の希望がいつのまにか消されてしまう、という方が少なくないようです。リビング、キッチン、寝室、子どものためのスペース、収納……。限られたスペースと予算の中で、いつのまにか「自分がほっとできる隠れ家「書斎」をつくりたいという希望は手の中からすり抜けてどこかへ飛び立ってしまうのです。

「家を設計する場合、当然施主様と綿密な打合をします。そのとき、男性と女性でこだわる部分に違いがありますね。外観に関しては、男性、女性半々で意見があり、折り合いを付けていくのですが、キッチンはほぼ10:0で女性の意見が多いです。男性から出てくるのは、キッチンの『見た目』。女性は動線とか収納、シンクの高さなど、細かい日常の使い勝手にこだわりますから、言われてなるほど、という具体的な希望をおっしゃいます。一方、男性は、シンクの高さが低かろうがなんとかなる、と思っているようで。むしろ、ベランダにバーベキューセットを置きたいとか、それを収納したいとか、話がどんどん飛んでいくんです(笑)」

わずかなスペースも書斎にできる。

趣味の空間としても、なんとか実現したい。

 男性の希望がうまく通らないのはそのあたりにあるのかもしれません。ぼんやりした夢はあっても、現実のものとして細部まで詰めていないから、説得力に欠けてしまうのではないでしょうか。希望を通したいなら、まず「具体的なプラン」を描いておくことが必要なようです。

夢を膨らませすぎていないか

「実は、新築の場合、強い気持ちで書斎を作りたいと思っている施主様の意見は、比較的通りやすいです。ご家族も日頃からそうした希望を聞いているでしょうし、ご主人が仕事で頑張っていることを知っていますし、そんな夢をかなえてあげたい、と思うのは当然のことでしょう。そういう方は、きちんと自分の書斎に対してのイメージも持っていらっしゃいますね」

 でも、夢というものは、追いかけていると、どんどん膨らんでしまうもの。例えばマンションの限られたスペースや狭小住宅など、制約が多く現実的には無理なこともあるのではないでしょうか。

「書斎というのは、実はさほど広くなくていいんです。せいぜい2畳、一坪くらいの広さで十分です。それをどうやって生み出していくかを考えればいいわけで、広さで言うとせいぜいウォークインクローゼットくらいなんですね」

蔵書や持ち物をすべて収めようとしていないか

 2畳程度のスペースなら、希望は持てそうです。6畳間ひとつの、大きな机をどんとおいて蔵書に囲まれる、というイメージをついつい持ってしまいそうですが、現実的に考えると決して超えられない壁ではなさそうです。

カウンターキッチンやリビングの一部も書斎にできる。

 でも、蔵書が大量にある場合はどうでしょう。最近では「自炊」と言って、蔵書をばらしてスキャナにかけ、自分で電子書籍化することなども流行っているようですが……。

「新築の場合、事前に打ち合わせで実際の蔵書がどのくらいあるかも伺います。場合によってはいまのお住まいに伺って確かめることもあります。持っているものを捨てたほうがいいです、断捨離をしてはどうですか、とお客様にアドバイスすることは、建築家としては『負け』ですから(笑)」

 大量の蔵書でも、それをいかに収めるのかということをクリアしながら、書斎のありかたを提案してくださるわけですね。

「最初に申し上げたように、強い意志が大切です。諦めないでください。建築家は、施主様の夢を叶えるために努力をするのですから」

 頼もしいエールを聞いたとことで、次回は新築の家で、限られたスペースの中で、どんな書斎を作っていくかを伺います。

(第2回に続く)

お話しを伺った方

齊藤裕幸さん

大学の建築学科卒業後、フリーダムアーキテクツデザインに入社。多くの人にとって、施主様が建ててよかったと感じていただくために、とことん要望を聞き、柔軟な発想で応え「形」にしている。

文◎坂井淳一 人物撮影◎小林彦真
取材協力◎フリーダムアーキテクツデザインhttps://www.freedom.co.jp/

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