シリーズ 男のリフォーム 「薪ストーブ」のある暮らし 第2回

クラシックからモダンまで……。ライフスタイルに合わせたストーブ選びのポイント

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素敵な「炎のある暮らし」を安全・快適に実現してくれるのが薪ストーブ。どんな暖房よりも環境に優しく、暖房能力も素晴らしいもの。第2回目の今回は、薪ストーブの基本的構造、そして最新モデルとその魅力についてご紹介します。

薪ストーブはクリーンな暖房器具

「薪ストーブというと私たちが思い浮かべるのは、学校や駅の待合室にあった、いわゆる“だるまストーブ”ではないでしょうか。ところが、最新の薪ストーブはそれとはまったく別モノです。優れた暖房能力を備え、カーボンニュートラルでどんな暖房器具よりも地球にも優しい。クリーンで環境性能に優れた最先端の暖房器具なのです。日本の森林の約80%は間伐を必要としていますが、その際に出る間伐材の有効活用にもなります」

 薪ストーブの販売・施工の草分け、株式会社エープラスのテクニカルマネージャーの小林雅生さんは語ります。

薪ストーブ設置のプロ、株式会社エープラス・テクニカルマネージャーの小林雅さん。「薪ストーブは懐かしのものではなく最先端の暖房器具です」

 薪ストーブというと、私たちには古いものだというイメージがあります。しかし、現代の環境を意識したクリーンな薪ストーブが最初に生まれたのは1970年代のアメリカ。見た目はクラシックですが、中身は革新的なものなのでした。

「最新の薪ストーブは、薪を燃やすための空気を微調整して、薪を効率良く燃やすことができます。さらに薪を燃やす際に出るススやガスを完全燃焼させる最先端の設計により、煙や臭いのないクリーンな排気を実現しています」

 日本には排煙、つまりストーブが出す排気や煙に含まれる微粒子についての規制はありません。しかし、アメリカやEUには煙突の機能を含めた厳しい基準が設けられ、この規制をクリアしたものしか販売はできないとのこと。

「排気がクリーンなばかりでなく、ストーブ本体も気密性に優れた構造で、薪が燃える際に出てくる一酸化炭素や二酸化炭素が室内に漏れてくることはありません。室内の空気をストーブの下部から取り込み、薪を完全に燃焼させ、排気を煙突からすべて外に排出します」

 空気と排気の流れは一方通行。だから安全だし部屋の空気を汚さないのです。

上昇気流を生み出す煙突は薪ストーブの要

 ところで、どうして空気や排気の流れは一方通行で逆流しないのでしょうか。勢い良く燃えるオレンジの炎を眺めていると、空気を送り込んで強制的に燃やしているのでは、と思います。
 しかし、それは違います。

「薪ストーブは、燃焼には一切電気を使いません。薪ストーブの空気や排気が一方通行でスムーズに流れる秘密は『煙突の吸引力』。薪を燃やして暖まった煙突内部の排気には、軽くなった上に昇ろうとする力が働きます。この煙突による吸引圧力によって、薪ストーブの中に空気を吸い込み、薪を燃焼させます。こうして一方通行の流れが生まれるのです」

「薪ストーブは煙突とセットで考えてください」と小林さん。

 そしてこの上昇する圧力は、外気温が低いほど、つまり寒ければ寒いほど勢いが増します。

「このとき、大きな役割を果たすのが煙突。薪ストーブと設置場所に合わせて設計された煙突がこの安全な流れを生み出しているのです。ですから、煙突の設計が悪いと、薪が上手く燃焼しません。また煙突が短すぎると、周囲の住宅にその煙が流れてトラブルになることもあります」

 つまり煙突は薪ストーブの要。薪ストーブを安全に使うには、適切に設計された煙突が不可欠です。そのことはしっかり覚えておきましょう。

ストーブ選びは、ライフスタイルに合わせて

同社と三ッ井さんが日本向けに共同開発した「ナンバー・セブン」。鋳鉄タイプの中ではユニークでモダンなデザインも魅力。暖房面積は50~90平方メートル。重量220kg。本体サイズは高さ692mm×幅702mm×奥行570mm。本体価格は46万円(税抜)です。

 さて、具体的にどんな薪ストーブがあるか、実際の製品をご紹介しましょう。
 薪ストーブには、大別するとふたつのタイプがあり、デザインも使い勝手もかなり違います。

 薪ストーブは、重厚で堅牢なデザインのものがいい……。そんな人におすすめなのが、マットブラックのキャスト(鋳鉄)製の薪ストーブ。圧倒的な存在感で間違いなく「部屋の主役」になってくれます。

 見た目そのままに100キロを超える重量があり、主にストーブ表面からの輻射熱で部屋を暖めてくれます。本体のサイズや燃やす薪の量にもよりますが、家全体を一日中暖め続けるような使い方に向いています。ただ、設置する際には床を強化し、しっかりとした断熱壁を作ることが必要になります。

 そして、この鋳鉄で造られたタイプの代表が、自動車メーカーに部品を供給するなど、ストーブ以外にも高品質な鋳鉄製品を製造するドイツ・ブルナー社製の鋳鉄(キャスト)製の薪ストーブ「アイアンドッグ(IRONDOG)」。

「重量がある分、蓄熱性能も抜群で、火を落としてからも長時間、部屋を温め続けてくれます。また、鋳鉄製の鍋をストーブの上に置いたり庫内に入れたりする調理がしやすいのも、このタイプの魅力です」と小林さん。

コンパクトで現代的なリビングに合うモダンタイプ

モダンでスタイリッシュなワムの薪ストーブ「4640」(中央)。スマートフォンのアプリで、燃焼状態を確認したり操作できます。暖房面積は30~180平方メートル。本体重量は195kg。本体のサイズは高さ1,143mm×幅630mm×奥行406mm。価格は53万円(税抜)から。

 モダンなインテリアデザインが大好きで、そんなお部屋の雰囲気はそのままに「炎のある生活」を楽しみたい……。そんな人にぴったりなのが、本体に鋼板を使い、炎が良く見えるようにガラス面を大きく取った、日本家屋の意匠との相性もいい薪ストーブです。

 その代表格が、デンマーク製の「ワム(HWAM)」。一流のデザイナーや建築家が手掛けたスタイリッシュでモダンなデザインで、ガラス面も広く、モダンなインテリアとの相性は抜群。ガラスはドイツ・ショット社の協力で開発した透明度の高い特殊素材セラミックガラス。内部の断熱材にはバーミキュライトを原料にした軽くて遮熱性能に優れた独自素材「スカモレックス」を採用することでコンパクトなサイズと優れた性能を実現しました。

 そして画期的なのが、センサーとマイクロコンピュータで、燃焼に使う空気の量を細かく自動制御する特許機構「ワム・オートパイロット・スマートコントロール」システム。難しい調整をしなくても、最高の燃焼状態を自動的にキープしてくれます。

「初めて目にした方は、そのモダンなデザインに驚かれるようですね。このタイプは、本体の内部に断熱材がセットされているので、輻射熱がメインで部屋を暖めるキャストタイプのように、ストーブの周囲をレンガなどで断熱する必要もありません。サイズもコンパクトなため、キャスト製のクラシックタイプと比べると、ミニマムなスペースで設置できます。しかもすごいのは、電子センサーを内蔵していて、その情報を元に空気の量を自動的に調節してくれます」

 点火してから素早く暖まり、昼間は不在で、仕事から帰った夜だけなど、生活スタイルに合わせて薪ストーブを使いたいという多忙な人にも向いているそうです。

炎のデザインにも注目!

 薪ストーブ選びでは「炎のデザイン」も選ぶポイントだと小林さん。

「今回モダンタイプとして紹介したデンマーク製の『ワム』は、炎のデザインもモデルごとに違います」

 薪ストーブの燃え方や炎は、実はどのモデルもそれぞれ違います。そして、特にこのモダンなタイプを選ぶ場合は、炎のデザインに注目したいもの。

 続く第3回では、薪ストーブの設置とメンテナンスについて、また、燃料である薪についての基礎知識と正しい着火法をご紹介します。

お話しを伺った方

小林雅生(こばやし・まさお)さん

元々は光学機器メーカーに勤務していたが、薪ストーブとの出会いをきっかけに、株式会社ディーエルディーに転職。テクニカルディレクターとして薪ストーブや煙突の設置を指揮。また薪ストーブの魅力を解説し、普及に力を入れる薪ストーブのプロフェッショナル。

文◎渋谷康人 撮影◎江藤義典
取材協力◎株式会社エープラス(https://www.aplusinc.jp/

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