シリーズ 男のリフォーム 「薪ストーブ」のある暮らし 第1回

「素敵な炎」の魔法で「ココロ」も「カラダ」もあったか

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ゆらめくオレンジ色の炎には、暖かいばかりでなく、人の心を癒す力があります。そんな「炎のある暮らし」を安全・快適に実現してくれるのが薪ストーブ。環境に優しく、暖房能力も素晴らしいもの。ところが「煙や臭いが出る」「手入れが大変」などの誤解も多いのです。そこで、まず第1回は、薪ストーブ本当の魅力と正しい知識をご紹介します。

環境にやさしく、心まで優しく癒してくれる炎

いつか映画で見たような、暖炉のあるリビング。

 子どものころ、外国映画や海外ドラマを観て「いつかは暖炉のある家に住みたい」と思ったことはないでしょうか。ゆらめくオレンジ色の炎を囲んで人々が集い語り合う、そんなシーンをわが家でも実現したい、と。
この夢をリフォームで無理なく実現してくれるのが薪ストーブです。

「20代初め、就職していた東京から帰省した時、地元の長野県伊那市で布教活動をしていたアメリカ人の宣教師さんのお宅で、薪ストーブに初めて出合いました。部屋はもちろん、心まで暖めてくれる、その暖かさは衝撃的でした。これは素晴らしい。一生の仕事にしよう。そう思いました」
 こう語るのは三ツ井陽一郎さんです。

日本における薪ストーブのパイオニアの一人、株式会社エープラスの代表取締役、三ッ井陽一郎(みつい・よういちろう)さん。

 宣教師の家にあったのは、当時アメリカで一大ブームを巻き起こしていた薪ストーブでした。三ツ井さんはその輸入販売を出発点に、日本における薪ストーブ導入の第一人者として、その普及に取り組んできました。

 現在は地元、長野県伊那市にある株式会社エープラスの代表取締役を務めています。本社を含め、全国9カ所に営業所兼ショールームを展開。さらに30カ所以上に薪を作り供給するサービス拠点を設け、薪の供給、メンテナンスまでトータルなサービスを提供しています。

長野県伊那市にある本社ショールーム。三ッ井さんが厳選した薪ストーブ、薪ストーブに関連するグッズも並ぶ。

 当時も今も、三ツ井さんの薪ストーブに寄せる想いは変わりません。
「この素晴らしさを、ひとりでも多くの人に知ってほしいのです」

 薪ストーブのゆらめく炎はずっと眺めていても飽きることがないし、心が落ち着くと言われます。これは炎の揺らぎが1/f(エフぶんのいち)のゆらぎと呼ばれる、特別なゆらぎを備えているからだそうです。

地球にいちばんやさしく、圧倒的な暖かさ

「人生を豊かにしてくれる暖房器具」と三ッ井さん。

 そして暖房能力も、エアコンや、ガスや石油を使ったファンヒーターとは次元が違うパワフルさ。一般的な暖房器具は、温めた空気を対流させることで部屋を暖めるものですが、薪ストーブは空気の対流だけでなく、ストーブ本体から赤外線の形で放出される輻射熱で、人やインテリアを暖めてくれます。

 この2つの相乗効果で暖めるので、薪ストーブはとても暖かいのです。サイズにもよりますが、一般的な薪ストーブの暖房能力は100平方メートルと言われます。これは畳の広さに直すと60畳ほど。つまり、建物全体を暖めることができます。

 また料理ができるのも、薪ストーブの大きな魅力。じっくりと時間をかけて食材を調理する煮込み料理やグリル料理も、その調理の様子を眺めながら行えますから、料理する喜びはまた格別。
「薪ストーブは人生を豊かにしてくれる暖房器具なのです」と、三ッ井さんは言います。

 また薪ストーブは、地球に最も優しい暖房器具でもあります。薪が排出するのは、樹木が生長するときに吸収した二酸化炭素だけ。つまり、プラス・マイナスはゼロで、薪は大気中の二酸化炭素を増やすことがない、カーボンニュートラルな燃料なのです。

 石炭や石油といった化石燃料は、樹木のように二酸化炭素を吸収したわけではなく、燃焼時に新たに二酸化炭素排出します。
薪ストーブで暖を取れば、化石燃料を燃料にするストーブを使わないので、その分、新たな二酸化炭素を排出しない計算です。

「1件の家庭が薪ストーブを導入することで、二酸化炭素の排出量は年間で2トンも削減できるそうです。木を原料にして作られる木質ペレットを使うストーブもありますが、ペレットを作る際には化石燃料を使いますし、何より薪は誰にでも作れます」

薪ストーブは「煙が出る」は大きな誤解

「残念なことですが、誤った情報や知識のせいで、薪ストーブは誤解されています」と三ツ井さん。
 中でもいちばんの大きな誤解が「煙が出る」ということ。

「薪ストーブが煙を出すのは、誤った使い方をしているから。不完全燃焼が起きているからで、正常な状態ではありません。きちんと準備をして、上手に点火できれば、煙は出ません。煙が出る最大の原因は、湿った薪。適切な大きさや量の十分に乾燥させた薪を使えば煙は出ませんし、煙突にタールが付着することや、ススやタールに火が付いて起きる『煙道火災』も起こさずにすみます」

 燃やす薪についても、誤った情報が広まっていると三ツ井さんは指摘します。その誤った情報とは「薪は広葉樹のものだけ。針葉樹の薪は使えない」というもの。

本社ショールームの横では薪作りを行っている。薪の宅配サービスも展開。

「しっかり乾燥させたもの、燃えやすいように適切なサイズに割った薪であれば、針葉樹の薪でもまったく問題はありません。私たちは実験でこのことを検証しました。そしてお客様に針葉樹の間伐材から作った薪もお届けしています」

 設置可能な場所についても、やはり大きな誤解があります。
「街中では無理だ、と思い込んでおられる方が少なくありません。集合住宅への設置は確かに困難ですが、一軒家なら、他の住民のコンセンサスさえ得られれば、ほとんどのお宅に無理なく設置できます」

 ここまで読んで、「それなら」と興味を持った思った方もいらっしゃるのでは。
 そこで第2回では、薪ストーブについての基礎知識と、オススメしたい最新の薪ストーブをご紹介します。

お話しを伺った方

三ッ井陽一郎(みつい・よういちろう)さん

自身の薪ストーブ体験をきっかけに1983年に創業したアメリカの薪ストーブの輸入販売を開始。以来「薪ストーブの素晴らしさをひとりでも多くの人に」という想いで世界最高の薪ストーブと関連製品届ける株式会社エープラスの代表取締役。

文◎渋谷康人 撮影◎江藤義典
取材協力◎株式会社エープラス(https://www.aplusinc.jp/

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