回遊式間取り 3つの落とし穴 [第3回]

収納が「増える回遊」「減る回遊」の分岐点

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間取りにオリジナリティを与え、家事効率などを高めるなどのメリットを享受できる回遊動線。しかし、動線の目的を明確にしないまま作ると快適性が損なわれる落とし穴があることを、第2回で紹介しました。第3回は、回遊式間取りを作ることで収納が減ってしまうケースをどう回避するか、一級建築士の飯塚豊さんに伺いました。

家が広くないと回遊動線は作れない?

動線がクローバー型になるようにした間取りの例。飯塚豊著『間取りの方程式』(エクスナレッジ)より

通常の間取りに比べ、動線スペースが必要な回遊式間取りは、広い家でないと取り入れることができないと思う人は多いのではないでしょうか。しかし、「空間が限られる家にこそ、回遊動線が向いている」と建築家の飯塚豊さんは話します。

「私が一軒家の設計でよく採用するのが、クローバー型の動線です。これは、玄関と階段をなるべく建物の中央付近にセットで置いて、その周りに各部屋を配置していくというもの。こうすると動線がクローバーのようになります。厳密には回遊式とは異なりますが、限られた空間を有効活用でき、動線の使い勝手もいい間取りです」

この他にも、飯塚さんが手がけた設計には、限られた空間にうまく回遊動線を取り入れた例があります。例えば、中央にトイレと収納を設置し、その周りのキッチン、リビング、ウォークスルー収納、脱衣室、階段を結ぶ動線です。限られた空間でも、回遊の利便性を十分に保ちつつ、収納スペースを確保することができています。

「狭くて収納スペースに悩んでいる家にこそ、回遊式間取りは向いている」と、飯塚さんは話します

ただ、やはり「回遊動線を取り入れることで家が狭くなり、特に収納の確保が難しくなるケースもある」と飯塚さんは指摘します。

部屋と部屋を廊下でつなぐ欧米流の間取りでは、部屋ごとにプライバシーが確保されます。しかし、回遊式間取りは、無計画なまま進めるとプライバシーも収納も確保することが難しくなっていることがあります。

また、収納にアクセスしやすいように動線を増やしすぎるのもよくある落とし穴で、かえって収納スペースが減ってしまうということにもなりかねません。

では、どうすれば収納場所を確保しながら、使い勝手の良い動線の間取りになるでしょうか。ポイントをいくつか飯塚さんに伺いました。

収納エリアを動線にするという考え方

1つ目のポイントは「原則的に個室は回遊しないこと」です。個室を回遊させると出入り口を2つ確保しなければならず、壁が減るため、必然的にベッドを置いたり、収納を設けたりすることが難しくなります。もちろん、プライバシーも保ちにくくなります。

ただし、「和室は回遊してもいい」と飯塚さんは言います。和室は家族の共有スペースとして使われることが多く、ふすまを外せば隣りの部屋とつながるなど、もともと回遊性のある空間だからです。

2つ目のポイントは、「子供部屋は一時的な回遊に留めること」です。例えば、子供が幼い頃は、隣に並ぶ兄弟の子供部屋や、子供部屋と親の寝室をつなぐ出入り口(動線)を確保すれば、子供たちが楽しく走りまわったり、親と子供がそれぞれの部屋に行き来しやすかったりするメリットはあるでしょう。

「ただしその分、収納場所を確保しづらくなり、子供が成長するとプライバシーが確保されていないことに嫌がることが想像できます。もし子供部屋に回遊動線を作るなら、幼いうちの一時的なものにすることをお勧めします」

こう話す飯塚さんの施工例が下の間取り。子供部屋と納戸、玄関を回遊させた間取りとなっていて、遊んで帰ってきた子供のおもちゃやスポーツ用品などをしまってから、そのまま部屋に入れるという利点があります」

3つ目は、「収納エリアそのものを動線にする」ことです。例えば、シューズインクロゼットは回遊動線に向いていると飯塚さんは言います。連載第1回でも少し紹介しましたが、玄関とシューズインクロゼットと廊下を結ぶ動線は、収納スペースを無駄なく確保しながら回遊させられるので、機能的な間取りと言えます。

また、脱衣室は、ウォークインクロゼットやキッチンとつなげやすく、ウォークインクロゼットから寝間着を持ち出してそのまま脱衣所に入り、入浴できます。

「脱衣室で脱いだ衣類をそこで洗濯・乾燥し、そのままウォークインクロゼットにスムーズにしまえるのも便利です。ウォークインクロゼットを広めに作れば、アイロンなどもかけられる家事室にもなるでしょう。これも、限られた空間内で動線も収納場所もしっかり確保できている無駄がない例です」

トイレも回遊に組み込まれることがあります。飯塚さんも、「わざわざ人の出入りを作るような動線を設けると落ちつかない空間になる」と話しつつ、こうも指摘します。

「バリアフリーという観点で、将来介護が必要になる人が住む家では、ホテル式の脱衣一体型のトイレとし、回遊動線を取り入れることも少なくありません」

実際、トイレと居室、廊下を回遊させた間取りは、廊下側と居室側のどちらからも最短距離でトイレに行けるという利点があります。移動がしづらい介護が必要な人にとっても、目的がある回遊動線は便利なものになると言えるでしょう。

目的を持ってきちんとプランニングして回遊動線を取り入れれば、使い勝手がよく、快適性も増す魅力的な間取りになります。リフォームなどを検討している人は、自分や家族の行動パターンをイメージしながら、取り入れるかどうかを考えてみましょう。

(連載終わり)

文◎高島三幸 撮影◎神出 暁 図面提供◎飯塚 豊

お話をうかがった方

飯塚 豊さん

一級建築士。1966年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業後、大高建築設計事務所を経て、2004年にi+i設計事務所を設立。暮らしが楽しくなる間取り・高い居住性能・オリジナリティ溢れるデザインを三位一体でまとめる設計手法で一躍脚光をあびる。11年より法政大学デザイン工学部兼任講師に就任。著書に『間取りの方程式』(エクスナレッジ)など。

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