【第3回】介護に効く究極の間取り- 本当のバリアフリーは「機能」ではなく「うるおい」が実現する

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老後介護リフォーム

ここまでの連載で、「寝室&水まわり隣接型」が介護リフォームのポイントであること、サービス付き高齢者向け住宅の間取りでは「引き戸」や「回遊性」をうまく取り入れていることなどを解説しました。最終回となる今回は、小川千賀子さんがプランニングを手がけた介護リフォーム事例を見ながら、高齢者の暮らしやすさや介護のしやすさを実現するさまざまなヒントをご紹介します。ご自宅の介護リフォームに生かせるヒントが満載です!

安全性と、住まいとしての美しさを両立

ご紹介する介護リフォームの事例は、息子さんが高齢のお母さんのために計画したもの。最初のポイントは、バリアフリーはもちろん、廊下やトイレ、洗面、浴室などに手すりをしっかり設けていること。80代で杖を使用しているお母さんの安全性や自立性を考えてのことです。

「ただし、手すりを多用するとどうしても病院や施設のような雰囲気になりがちです。そこで、手すりだけでなく、いざというときは手をついて体を支えられる飾り棚を随所に設けることで、安全性と住まいとしての美しさの両立を心がけました」

では、小川さんがこの介護リフォームで行ったさまざまな工夫について見てみてみましょう。

●間取りのポイント

1.玄関には収納スペースをたっぷり確保

お出かけや買い物の際にシルバーカーを使用している高齢者も多いと思います。スペース的に余裕があるならば、外出時に使うシルバーカーや車椅子の収納スペースが玄関まわりにあるととても便利です。

2.玄関には向かい合わせで2つのベンチを設置

靴を履いたり脱いだりする際は、腰を降ろしてするほうがぐっと楽になります。そのためのベンチや小さな椅子が玄関にあるとよいでしょう。この事例では、玄関に小さなベンチを2つ、向かい合わせに設置し、ご近所の方が訪ねてきたときに座りながらおしゃべりできるようにしています。

3.玄関ホールの床材は滑りにくいウールのカーペットに

玄関ホールや廊下の床材は滑りにくく、転んでも痛くないようにクッション性のあるものを選ぶと安心。この事例では、ショールームを見学した際、お母さんが毛糸の靴下を履いていて玄関ホールのフローリングで滑りそうになったのを見て、滑りにくいウールのカーペットを採用したそうです。

4.可能な限り引き戸を使い、移動や介護の負担を軽減

連載第2回「お手本はサービス付き高齢者向け住宅」でも解説しましたが、引き戸は開き戸のように身体を一歩手前に下がって開けたり、開いた扉を手で押さえたりする必要がないため、車いすでの移動や歩行介助に便利です。

5.2方向からアクセスできるキッチンで回遊性のある空間に

連載第1回「「65歳」がリフォームのリミット」で解説したように、各部屋を回遊できる間取りにしておくと車いすでも動きやすく、行ったり来たりする時間が削減できて介護もしやすくなります。この事例では、リビングからも、廊下からもキッチンへアクセスできるようにすることで、回遊性のある空間を実現しています。

6.トイレはできるだけ寝室の近くに設置

これも連載第1回で解説したことですが、介護リフォームのポイントは「寝室&水まわり隣接型」。とくに高齢になるとトイレの回数が多くなるため、転倒事故の防止や介助のしさすさなども考え、トイレはできるだけ寝室の近くに設置するようにしましょう。

7.寝室と介護する人の部屋を隣接させ、介護のしやすさを実現

介護のしやすさを考え、お母さんの寝室と介護する人の部屋を隣接させるとともに、回遊性のある間取りにしています。介護する人が近くにいることで、寝室での転倒などお母さんにもしものことがあったときもすぐに気づくことができます。

8.寝室には親子扉を採用し、2人での歩行介助も可能に

スペース的な問題からお母さんの寝室は引き戸ではなく開き戸ですが、介護のしやすさを考慮して親子扉を採用。子扉も開放すると間口が広くとれるため、2人で歩行介助をすることもできます。

おばあちゃんの家に来たくなる仕掛けづくり

もう1つ、小川さんが意識したことがあります。それは、居住者である80代のお母さんと、近くに住む息子さん世帯が、温かいコミュニケーションを図れる仕掛けをつくること。

●間取りのポイント

1.リビングにピアノを置くことで、お孫さんがおばあちゃんの家を頻繁に訪れるように

2.木製の浴槽を設置し、息子さん世帯もおばあちゃんの家のお風呂を楽しめるように

「お孫さんがピアノを習っているということでしたので、リビングにピアノを置きました。お孫さんはピアノの練習をするためにおばあちゃんの家を頻繁に訪れますし、おばあちゃんにはピアノの演奏やお孫さんとのおしゃべりがとてもよい刺激になると思います」

また、息子さん世帯の浴室は一般的な樹脂素材の浴槽ですが、お母さんの家の浴室は木の肌触りや香りを楽しめる木製の浴槽にしたそうです。

「息子さんご夫婦やお孫さんが『今夜は木のお風呂に入ろうか』と、おばあちゃんの家に行くのを楽しみにしてもらえるようにプランニングしました」

当初は、住み慣れた戸建てを離れ、この家に移るのを嫌がっていたお母さんも完成したわが家を見てとても気に入ってくれたそうです。

「息子さんのお母さんを思う気持ちが伝わったのでしょう。本当に優しい笑顔で、息子さんに『ありがとうね』とおっしゃっていました」

3回にわたって「介護に効く究極の間取り」について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。これまでご紹介した介護リフォームのポイントや間取りのヒントを参考にしながら、ぜひご自身やご両親、ご家族がいつまでも笑顔で暮らせる家づくりを考えてみてください。

この連載終わり

お話を伺った人

小川千賀子さん

一般社団法人 日本インテリアアテンダント協会 理事長株式会社デザインクラブ 代表取締役社長

ディベロッパー、リフォーム会社勤務などを経て、1998年に株式会社デザインクラブを設立。2013年、一般社団法人 日本インテリアアテンダント協会設立。ユーザー側の立場で専門家とつなぐ役割を持つ「インテリアアテンダント」を職業として確立し、ユーザーに介添することで家づくりにおけるトラブルを未然に防ぎ、住まいづくりをもっと楽しくすることを目指す。著書に『女性の生活目線でわかった! 99%失後悔しない「65歳からのリフォーム&家づくり』(日本文芸社)、『住まいをもっと楽しくするイマドキの方法』(カナリア書房)などがある。

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