
書斎というと「デスクや本棚がある個室」をイメージする方が多いかもしれません。しかし、最近ではランドリースペースにあったり、メイクスペース兼用だったりと、そのあり方や用途が多彩になっています。最終回は、一級建築士の津野恵美子さんが実際に手掛けた実例を交えながら、さまざまな用途に合わせた書斎のつくり方をご紹介します。
撮影:西川公朗
書斎をつくるときは、「女性のためのスペース」という意味合いでつくることも多いという津野さん。下写真のキッチン脇につくられた書斎は、「家事の合間にちょっとした作業がしたい」というお母さんのためにつくられたそうです。
「お子さんの学校関係のプリントなどをダイニングテーブルで広げてしまうと、毎回片付けるのが大変です。その点、キッチンの脇に書斎スペースがあれば、家事をしながら書き物などができて便利です。デスクには薄い引き出しも組み込んであるため、お子さんのプリントやレシピ本などを収納することもできます。
また、この書斎はデスクが窓に面しているのも特徴です。窓から道路が見えるので、お子さんの通学を見守ることもできます」
撮影:花岡慎一
こちらは、廊下の細い空間につくられた「仕事の作業場、兼メイクスペース」としての書斎です。「自然光のもとでメイクがしたい」という奥さまのご要望からつくられました。
「自然光が差し込む明るい場所でメイクをすると、きれいに仕上がるとよく言われていますよね。でも、多くの人がメイクをする洗面所は、窓をつくりにくい場所です。暗い洗面所でいくら照明をつけても、外に出たら厚化粧になってしまったという経験がある人も多いのではないでしょうか。
メイクスペースとしての書斎をつくるなら、自然光が差し込む明るいスペースに設けることをおすすめします」
撮影:西川公朗
また、こちらはランドリー内に設置されたデスクです。アイロンや洗濯物などが収納できるほか、ランドリー関係の作業ができるスペースとなっています。
「ランドリースペースは案外、いろんな作業が発生する場所です。たとえば、洗濯前の処理として襟に洗剤を塗ったり、タグを外したり……。衣類関係では、アイロンがけやボタンつけもありますよね。そういった作業をすべてランドリースペースで行うことができれば、作業効率が上がり、家事の時短にもつながります」
また、最近ではひとり用の書斎だけではなく、家族で共有できる書斎も増えてきています。
こちらは、2階に設けられた家族共用の書斎。
「ここでパソコンを使ったり、家族でコミュニケーションをとったりすることができます。
そのご家族は『ファミリーラボ』と名付けられていましたね」
撮影:西川公朗
ちょっとした空きスペースが、家族の会話が生まれる場になる――。無限の可能性を秘めた「共有スペースとしての書斎」は、お子さんがいる家庭にぜひともおすすめしたいアイデアです。
以上、4回にわたって「スキマ書斎」シリーズをお送りしてきました。
この連載でお伝えしてきたように、書斎はちょっとしたスキマ空間があれば意外と簡単につくることができます。また、ヴィータスパネルのような商材を使えば、大掛かりなリフォームをしなくても書斎スペースをつくることは可能なのです。
仕事場、趣味を楽しむ場、家事スペース、団らんの場……。さまざまな用途で使用可能な「スキマ書斎」のある生活を楽しんでみてはいかがでしょうか。
一級建築士事務所 津野建築設計室主宰。一級建築士。1973年神奈川県生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。東京大学工学系研究科修士課程修了。大学での研究テーマが「環境心理」だったことから、敷地条件や家族の関係性を踏まえながら、空間や暮らしに適切な寸法を与えることを得意とする。繊細な感性と緻密な計算により、くつろぎ、心地よさといった感覚を数字に置き換え、暮らしやすく、美しい空間を設計。どんな暮らし方をしたいか、理想のライフスタイル、好きな本、映画、好きな家事・苦手な家事など、漠然とした質問も含め、念入りな打ち合わせにより、言外の思いも汲み取り、設計に反映させることができるのも特徴。
文◎八木麻里恵
人物写真◎加々美義人
ヘッダーイメージ:撮影:西川公朗
画像提供◎Shutterstock/PIXTA