料理家に学ぶキッチンづくり[case 5:第3回]

「ツール置き場」を決め、動線改善!~有賀薫さん

空間
キッチン
関心
ライフスタイル建築デザイン

必要最小限にまとめたキッチンツール

 有賀さんは、奥まった場所にある既存のキッチンと、IHヒーターや小さなシンクが設けられたダイニングテーブルの2か所を行き来しながら料理をしています。
 菜箸やお玉などの道具もたくさん必要で、収納も大変そうです。

「それが、意外に思われるかもしれませんが、キッチンツールはとても少ないんです。ステンレスのカップの中に、お玉、ソーススプーン、菜箸、ヘラ、しゃもじを入れて、それを持ち歩きます。材料のカットが済んでしまえば、大抵の料理は、これらがあればできてしまいます」

 このツールセットは、冷蔵庫の横にある棚の上にいつも置いているそうで、それ以外の使用頻度が少ないツールは、引き出しの中にしまっておくそうです。

「この棚は大工さんに作ってもらったんですが、夫がDIYで棚板の上にタイルを貼ってくれたり、使い勝手を良くしてくれました。他にも、ペーパーホールダーを付けてくれたり、冷蔵庫の側面にフックを付けてくれたりもしてくれました。ツールを置いてあるのは、奥のキッチンとダイニングテーブルの両方からすぐ取れる位置です。ほかにも、普段使うカトラリーやスペアのゴムべら、お玉、計量カップなどもここに置いてあります。こうしたものは厳選して、すぐ手に取れるところに置いておくことが肝心なんです。探す手間がかかると、その分料理の効率は悪くなるし、料理をしていてもストレスを感じますよね」

 息子さんが独立したあとには、食器類の数も減らしたそうです。

「料理家という仕事をやっていると、食器をたくさん持っていて、道具もものすごく揃っているイメージがありますけれど、私はかなり絞っていますね。リフォームが決まったときに、キッチンの収納や道具類、お皿の数を全部見直しました。仮住まいに引っ越した時に全部並べてみたら、『こんなにいらないな』と、思い切って整理したんです。普段の生活でも、お友達が10人も20人もやってくるわけではありませんしね」

 いまは2人暮らしの有賀さんは、普段づかいの食器もかなり絞ったそうです。

「ダイニングテーブルの後ろの壁が収納になっているんですが、食器類のほとんどは、その下の部分に収まっています。スープ用の器はある程度の数を持っていますけれど、料理にまつわる仕事はほとんどがスープに関するものですから、写真用はひとつあればOKなんです(笑)。他の料理家のように、食器であふれることはないですね。家にないものが必要なときは、スタイリストさんにお願いして借りたりしています。仕事で常に使うものは、数だけでなく、デザインも使い勝手も気に入ったものを厳選しています。こういう仕事ですから、写真に写り込むこともあるので、自分が使っていいと思うもの、実際にお勧めできるものを選ぶようにしています」

鍋の数は減らせない

 そんなミニマルな食器の数とは正反対で、ダイニングの壁には、ずらりとお鍋が飾られています。

「鍋は好きということもありますが、もちろん仕事でもあるので、たくさん持っています(笑)。キッチンに置いてあるのは20個ほどですけれど、全部で50個くらいはコレクションしているかもしれません(笑)。スープ作家という特殊なジャンルでもありますから、むしろ100個くらい持っていても許されるのかな、と」

 鋳物ホーローのカラフルな鍋が多いようです。

「はい、大方はル・クルーゼのお鍋です」

 ル・クルーゼは結婚祝いのプレゼントなどで人気の、ハート型の鍋が有名なメーカーです。

「形だけでなく、色もカラフルでかわいらしいことが人気の理由だと思いますが、実用面でも優れたお鍋だと思います。鋳物製で重さがありますが、蓄熱効果も優れていて、煮込み料理にぴったりです。蓋も重いですけれど、そのおかげで無水調理もできます。オーブンウェアとして、そのままオーブンの中に入れて料理を仕上げることもできるんです。底が丸いので、中で食材を炒めるのもスムーズですし、ホーローだから焦げ付いてもガシガシ洗えます。実は、母に初めて買ってもらったのがル・クルーゼの鍋だったんです。それ以来、ずっと使い続けています」

 同じような鍋で人気のメーカーに、ストウブの製品があります。

「私も持っています。同じように無水調理もできる鋳物製の鍋です。形がかっこいいし、蓋の内側にピコと呼ぶ突起があって水蒸気がうまく対流するように工夫されています」

 レストランでもストウブはよく使われています。

「質実剛健な感じでプロっぽくていいですよね。でも私は、かわいらしい形と色のル・クルーゼのお鍋が一番好きなんです。色もサイズも豊富で、集めるのが楽しくて。アンティークのものもあるんですよ。ル・クルーゼの良さは見た目だけというわけではなく、底からの立ち上がりに丸みがあって、具材を炒めるときにヘラがぴったり沿うし、内側が黒くないので具材の変化も見やすい。料理するときの心地良さが気に入っているんです」

 ひとつのメーカーにここまでこだわるのは、それだけ良いということなんでしょうか。

「同じようなお鍋はたくさんありますけれど、使っているうちに好みの鍋がだんだん定まってきました。ル・クルーゼはその中で自分に一番ぴったりした鍋なんだと思います」

 最後はル・クルーゼ愛があふれ出した有賀さんでした。リフォームをして素敵になった、新しい家族のあり方を踏まえたキッチンと、その中心にあるIHヒーター付きのダイニングテーブル。その上でスープを煮込むル・クルーゼの鍋。キッチンのリフォームを考えている方にも、料理をもっと楽しみたいという方にも、参考になったのではないでしょうか。

 おいしい料理は人を幸せにします。
 有賀さんのように、日々の生活を楽しめる素敵なキッチンをめざしませんか?

≪お話を伺った方≫

有賀薫さん

スープ作家。約10年間3500日以上、毎日スープを作り続けながら、シンプルで作りやすいスープのレシピと暮らしの考え方を各種メディアで発信。cakes連載『スープ・レッスン』が人気。『スープ・レッスン1.2』(プレジデント社)『有賀薫の豚汁レボリューション』(家の光協会)など著書も多数。最新刊は初のエッセイ本『こうして私は料理が得意になってしまった』(大和書房)。

文・撮影◎坂井淳一(酒ごはん研究所)

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