料理家に学ぶキッチンづくり[case 2:後編]

日々の料理に欠かせない道具たち~今井真実さん

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「蒸す」ことで料理の幅が広がっていく

 今井さんが、日々の仕事や料理の中で欠かせない調理道具はあるでしょうか。

「私が重宝していて、ぜひおすすめしたいのが蒸籠です。私は、横浜中華街にある照宝というお店の、かなり大きいサイズの蒸籠を使っています」

愛用の蒸籠。二段がさねもできる。

 最近は野菜なども電子レンジで加熱する家庭が増えて、「蒸す」という調理方法をとる家庭は少なくなってきた印象があります。

「電子レンジも便利ですが、材料が多いと加熱ムラができたり、加熱時間が長すぎて部分的に固くなってしまったりすることもあります。たっぷりの蒸気で蒸すと、そういう失敗は起きません」

 かつては多くの家庭にアルマイト製の蒸かし鍋がありましたが、最近では蒸し料理をするときは鍋の中に入れる折りたたみ式の蒸し器が多いと思います。

「蒸籠をお勧めするのは、蒸し上がったものをそのまま食卓に置くことができる、というのが理由のひとつ。竹製の蒸籠は、テーブルの上で映えますし、ちょっと特別な感じもしますよね」

 最初は、大きな中華鍋の上にのせていたそうですが、現在はアルミ製の打ち出しの雪平鍋を使っているそうです。

「大きな中華鍋は重いし、出し入れが大変なので使わなくなりがちです。そこで、小さめのアルミの鍋の上に置くようにしたんです。枠の直径のほうが少し大きいのですが竹で編まれた底の部分と鍋のサイズが合っていれば大丈夫です」

 家庭用のガステーブルでは、大きな鉄製の中華鍋は持てあましがち。炒めものも火力が不足して使いこなすのも大変です。
 炒めものなども、家庭ならフライパンで十分といえるでしょう。

「蒸すという調理法は他にもメリットがあります。例えばジャガイモは皮付きで蒸せば、その後皮を剥いたり、芽の部分を取ったりするのも簡単なんです。そして食材の美味しさを引き立ててもくれます。蒸した茄子に醤油をかけただけでも美味しいし、家庭料理は簡単で、ホッとできるようなものがいいと思うんです。食べきれなければ翌日にスープやお味噌汁の具にすることもできます」

あるとないとでは大違いのハンディブレンダー

 もうひとつ、今井さんは「ハンディブレンダー」を活用しているそうです。

「ポタージュを作るときに、下ごしらえで野菜を切るのも、アバウトで大丈夫です。タマネギ炒めて柔らかくしてから潰して、という料理でも、みじん切りという工程がひとつ増えるだけでハードルが上がるんです。涙も出てきますしね(笑)」
 そんな今井さんは、新しく調理器具や鍋などを買うときに、ひとつだけ心にとめていることがあると言います。

「ものを買うときに、同じようなものが2つあって数千円の値段の違いで悩んでいるなら、高いほうを買うと良いと思います。安いものを買って機能が足りなかったり、性能が十分ではなかったり。キッチングッズは長く使い続けることが多いので、後悔しないように吟味してください」

 今井さんは神戸出身で、独身時代は神戸のテレビ局でディレクターとして働いていたそうです。

「インタビューなどを撮るときに、市内のカフェやレストランを借りていたんですね。普段の生活も外食ばかり。元々料理は好きで学生時代にバイトしていたこともあって、そうやってつながりができたレストランで、料理のしかたを教わったりしました」

 職を辞し、東京にやってきた今井さん。友人を部屋に呼んで手料理を振る舞ったりしていたそうです。

「そのうち結婚して会社を辞め、料理教室を始めたことが、料理家になったきっかけです」

 現在、写真家のご主人とお子さんの3人暮らし。子育てに忙しい日々ですが、ご主人も分担して料理をなさるそうです。

「夫はお米農家の生まれなので、ごはんを炊くのが上手ですね。うちはル・クルーゼの鍋で炊いているんですが、とてもおいしいです。そして塩むすび。これだけは夫にかないません。塩をバーンとつけて握ってるだけと言うんですけれどね。それに、私が子どもをお風呂に入れている間に、夕食の食材を切っておいてもらったり、お味噌汁の出汁をひいてもらったりして、とても助かっています。でも、料理の味付けは、絶対に私がやります。私は食いしん坊なので、自分が美味しいと思った自分のレシピでごはんを食べたいんです(笑)」

 料理家ならではの、譲れない部分にこだわりを持ちながらも、うまく家事を分担しているところも素敵です。仕事の撮影も、8割くらいを自宅で行い、写真家のご主人が担当しています。

「私の料理は、毎日の生活で無理せず作れるものを目指しています。なので調理のハードルは低めです。例えば『和えるだけでいいんや、この組み合わせならちょっと目先が変わっておいしいなあ』とか、『毎日小さい驚きがあると楽しいかな』と思ってレシピを考えているんです。なので、日々の食事の中で試作もしています。そうすれば、普段の家事の中で作れるか、疲れないで作れるか、という検証もできます」

 今日できるかも、明日できるかも、と思うような料理を提案してくれる今井さん。
 ぜひ、今井さんの料理を作ってみてください。
「味も保証付きです。家族みんなが食べてくれて、おいしいと言ってくれますから。」

≪お話を伺った方≫

今井真実さん

毎日のご飯作りの助けになりたい、作った人が嬉しくなる「新しい家庭料理」を。 お味噌、梅、塊肉はライフワーク。 キャンプでお肉を焼くのがストレス解消だそうです。今井さんのレシピが見られるnoteはこちら https://note.com/imaimami/

取材・文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
写真◎今井裕治

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