料理家に学ぶキッチンづくり[case 2:前編]

「作り手」が幸せになれる空間づくり~今井真実さん

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築30年! 賃貸テラスハウスのキッチン

 日々の生活のなかで、食事はとても大切なものです。けれど、毎日三度の食事の支度を完璧にこなすのはとても大変。無理せず、時には手を抜きながら、それでも楽しく、美味しい食事を作ることができたら、その家庭はとても幸せだと言えるでしょう。

「料理を食べる人だけではなく、作る人も幸せになれる、繰り返し作りたくなるレシピを伝えていきたいんです」

 料理家の今井真実さんは、そんな気持ちで、日々、レシピを考えているそうです。

「例えば料理を作るときに、タマネギをみじん切りにして、飴色になるまで炒めて……というプロセスが入ると、それだけでハードルが高くなりますよね。涙も出ますし(笑)。なので、なるべくハードルを下げて、でも丁寧で美味しい料理が作れるように。そんなことを考えながらレシピを作っています」

 今井さんが住んでいるのは、都内の賃貸の一軒家。テラスハウスタイプの建物です。
 この家のキッチンで、毎日の生活の中で試作もし、撮影もしているそうです。

「築30年以上経っている、けっこう古い物件なんです。前に住んでいた方は、新築からずっと住み続けていらっしゃったそうです。キッチンは4畳ほどで、そこに広めのリビングダイニングが続いています」

 しかし、30年以上メンテナンスの手が入っていない家は、やはりあちこち傷んでいたようです。

「キッチン入口の扉がうまく閉まらなかったんですね(笑)。そこで、入居してすぐに、管理会社さんに修理をお願いしたんです。30年経つとドアの補修用の部品も見つからないらしく、古かったキッチンを含めてまるまるリフォームをすることになったんです」

キッチンをフルリフォーム

 リフォームの費用はすべて管理会社が負担。内容についての相談はなかったそうです。

「私が料理の仕事をしているという話もしませんでしたし、ある日業者さんから連絡があっていきなりリフォームをすることになりました。キッチンに置いてある料理道具や食器などを片付けるのにあたふたしました(笑)」

 扉の交換から始まって、タイル張りだった壁を白いクロスに貼り替えるなど、全面的なリフォームだったそうです。

「一番大きく変わったのはシンクやガステーブルです。それまでは、後置き型のガステーブルを置く、古い流しでしたが、システムキッチンに変わりました。収納が増え、なによりガステーブルが3口タイプに変わったことで使い勝手がとても良くなりました。火口がひとつ増えたのは、それまで、どうやって料理をしていたんだろうと思うくらい便利です(笑)」

 シンクの左脇には食洗機を設置し、向かい側にはワゴンテーブルを置いて細々した食材や調理道具を整理しています。システムキッチンになったことで、とても機能的になったそうです。

「シロッコファンタイプの静かで効率的な換気扇に変わって、キッチンに油が充満することもなくなりましたし、壁がクロスになったことで拭き掃除もしやすくなりました。それまではタイルのような味わいのある壁だったので、殺風景な気がして、クロスを貼ったり、デコレーションをしたりということも考えたのですが、キッチンは清潔さが何より大切なので、そのままにしました」

調理道具も器も必要最小限

 今井さんのキッチンは驚くほどものが整理されています。かといって見えるところに何も置かないというわけでもなく、くらしの息づかいが聞こえてくるような、温かい雰囲気です。

「他の料理家の方に比べると、私は調理道具も器などの数も少ない方だと思います。例えばお鍋は全部で8つ。そのうち3つがル・クルーゼの鍋です」

 ル・クルーゼの鍋は鋳物製で、ガラス質の釉薬を焼き付けたホーロー加工がされています。アルミなどの鍋に比べて少し重いのですが、煮込み料理などにも適し、オーブンの中にそのまま入れることもできます。
 また、蓋も重いので密閉性も高く、無水調理もできるので、料理好きには人気のお鍋のひとつです。

「他には片手鍋が2点、土鍋が1点。フライパンは鉄製のものとノンスティック加工のものが1点ずつです」

 フライパンはうまく使い分けをしている、という今井さん。
 けれど、ノンスティック加工のフライパンにも便利な側面があるので持っているのだそうです。

「油の量や火加減などが大きく変わってくるので。値段もそう高くはないものを使っています。家庭用のものです。鉄製のものは手入れをきちんとすれば一生使えますが、ノンスティック加工のものはどうしてもコーティングの寿命がありますので、数年で買い換えています」

 包丁は、一般的な三徳包丁が3本のほか、果物ナイフが1本だそうです。

「料理教室をやっていたので、三徳包丁は3本持っていますが、普段使っているのは1本だけです。果物ナイフもけっこう活用していて、これでお魚もおろしちゃいます(笑)」

 同様に、器も数を増やさず、最小限にしているそうです。

「リフォームをして収納を増やしたいという方も多いと思いますけれど、使いやすいキッチンにしたいなら、まずは断捨離してみることをお勧めします。私自身、年に一度では足りないほど、使わない食材や食器、道具などが溜まってしまいます」

 食材は定期的に見直して、使いかけのものは早めに料理することでフードロスも防げます。食器なども捨てずに、リサイクルに回したり、必要な人にあげるのもいいかもしれません。

「現状を打破するには、使っていない調味料や調理器具を捨てる勇気を持つことです。ものが減ると思考がクリアになるんです」

 後編は、今井さんおすすめの道具について伺います。

≪お話を伺った方≫

今井真実さん

毎日のご飯作りの助けになりたい、作った人が嬉しくなる「新しい家庭料理」を。 お味噌、梅、塊肉はライフワーク。 キャンプでお肉を焼くのがストレス解消だそうです。今井さんのレシピが見られるnoteはこちら https://note.com/imaimami/

取材・文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
写真◎今井裕治

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