住んでいたマンションをフルリノベ
今回登場いただく米澤文雄さんは、ニューヨークのミシュラン三つ星レストラン「ジャン・ジョルジュ」で、日本人初のスーシェフ(副料理長)を務めた方。
現在は表参道のサスティナブル・グリルレストラン「The Burn」のシェフです。お肉料理のレストランにもかかわらず、ヴィーガン料理の本を出されています。
6年前、当時築19年ほどのマンションを購入し、このほど2人の娘さんが大きくなってきたこともあり、リフォームに踏み切ったのだそうです。
「買った頃は、不動産の価格が比較的落ち着いていたんですね。広さは75平米ほどで3500万円くらいの物件でした。職場に自転車で通えて便利なのと、仮に住み替えるなら、いまと同じか広い家は価格が高騰していて予算的に見合わないなあと迷っていたんです」
そんな時、知り合いのデザイナーの方に「リフォームならどうだろう」と提案されたそうです。
「4人家族でこの広さなら、けっして狭くはないですし、子どもにはそれぞれのプライベートが保てる部屋を作って、リビングダイニングは大幅に作り替えることにしました。総額1500万円ほどで、ほぼフルリノベーションですね。生活のスタイルに合った住みやすい部屋になりましたし、買い替えるよりもはるかにリーズナブルだったと思います」
リビングダイニングは、奥にあったキッチンを窓に近い場所に移し、アイランド型に。その前にダイニングテーブルを置きました。キッチンがあったところにはソファを置き、家族がくつろげるスペースにしました。
ステンレス製のアイランド型キッチン
リフォーム後のキッチンを、米澤さんに解説していただきました。
「木製のフローリングを施したフロアにステンレスのアイランド型キッチンを、というのが最初のオーダーです。キッチンそのものは既製のサイズで、そこにシンクやガステーブル、引き出しなど、さまざまなコンポーネントを組み込んでいくスタイルにしました」
プロのシェフのオーダーと言うことで、火力の強いプロ用の厨房機器をチョイスするのかとも思いましたが、米澤さんの選択は、家族の使い勝手を優先したものでした。
「レストランとは違い、いっぺんに大人数の料理を作ったり、仕込みを毎日したり、ということはありません。家庭用の3バーナーのガステーブルにして、オーブンは背後のカップボードに置いた、少し大きめの家庭用スチームオーブンレンジです。私は休みの日くらいしか料理をしませんが、妻は子どものために毎日の料理を作るので、その使い勝手を考えました」
奥様の江美子さんは、とくに収納部分に関してご要望がおありだったと言います。
「なるべくものを見せたくなかったので、内側に細かく引き出しを作ってもらいました。食器以外の料理道具や鍋などは、すべて収納でき、また取り出しやすいサイズにしてもらいました」
ビルトイン型の食洗機も組み込んでいます。以前のキッチンでも食洗機があり、とても便利だったそうです。
「ただし、ひとつだけ『こうしたらもっと良かったかな』と思うのは、食洗機の位置ですね。低い場所に組み込んだので、洗いものを出し入れするときに、かがまなければなりません。性能的には十分なのですが、やはりショールームなどで実機を確かめておきたかったなと思います」
それ以外に、設計中にデザイナーと話し合ったことはあるのでしょうか。
「強く要望したのは、ガステーブルとシンクの間の、盛り付けなどをするスペースを極力広くして欲しいということでした。ここが狭いと、キッチンは使いづらくなると思います。我々プロのキッチンは、食材を切る場所と盛り付ける場所は別のスペースがありますが、家庭のキッチンはそういうわけにはいきません」と米澤さん。
全体的には、ほぼ思い通りのキッチンに仕上がったそうです。
「シンクの深さはもう少しあった方が良かったかなとか、水栓を自動にすれば良かったかなとは思いますが、大きな問題ではありません」
最後に、料理家の目から見て、キッチンにあった方が良いものを伺いました。
「設備ではありませんが、ハンドブレンダーがあるといいですね。料理の幅がぐんと広がります。ポタージュなどのスープが簡単に作れますし、料理の下ごしらえなどにも欠かせない道具だと思います。
私自身、導入して便利だと思ったのがソーダストリーム(炭酸水メーカー)ですね。ホームパーティなどを開くときも、ドリンクのために何本もペットボトルを買ってこなくてすみます。ウォーターサーバーもあります。手間の問題だけではなく、ペットゴミが減るからというのも導入の理由です」
米澤さんがシェフを務めるレストランには、「サスティナブル・グリル」の文字が。お店だけでなく、普段の暮らしでもSDGsを意識なさっています。ペットボトルのゴミを減らすことはとてもサスティナブル。小さなことかもしれませんが、2人のお子さんがいるシェフだからこその、子どもたちの将来をも見据えた考えです。
コロナ禍でのレストランの営業自粛がひと段落して、お店も忙しくなった米澤さん。けれど、休日の家族との時間が一層楽しみになったようです。
「アイランド型で、左右からキッチンに出入りできるようになったせいもあるかもしれませんが、2人の娘もすすんで食事の用意を手伝ってくれますし、料理に興味を持っているようです」
家族みんなが笑顔になれるキッチンになったことは、娘さんたちを見守る米澤さんの表情からもよくわかります。
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