禅宗のお寺では、結界に「不許葷酒入山門」と書かれています。葷酒(くんしゅ)、つまりニンニクやネギなどは修行の妨げになるので、これらを修行の場に持ち込むことは許さない、という意味です。
こうした厳しい戒律を課すヴェジタリアンもいますが、大半はは、「肉、魚、たまごや乳製品などの動物性の食材を食べない」という考え方に基づいて生活をしています。インドのヴェジタリアンのなかには、乳製品やたまごなどは食べても良いと考える人もいます。
日本では、昔はあまり肉を食べていませんでした。それでも豊かな食文化があります。鰹節やいりこなどの動物性のだしを使わず、干し椎茸や昆布などのプラントベース(植物由来の食材だけを使う)のだしを使った料理も、精進料理に限らずたくさん存在しました。
「けんちん汁」も、本来はそうしたプラントベースのヴェジタリアン料理の代表格です。
今回は、食べごたえのあるスープを2種類ご紹介します。
豆とココナッツミルクのスープ
1品めは「豆」を使ったスープです。豆はタンパク質や食物繊維が豊富で、保存性もいい優れた食材です。さっと煮られるレンズ豆や、大豆、大粒の花豆などさまざまな豆があります。今回はインドや中東からヨーロッパまで広く食べられているひよこ豆を使ったスープを作ってみましょう。ココナッツミルクを使います。カリウムや鉄分、マグネシウムなどミネラルが豊富で、さらにコレステロールがゼロ、というのも魅力的です。
ココナッツの香りがどうしても苦手という方は、豆乳を使っても良いでしょう。
ひよこ豆は戻すのに時間がかかりますが、いまは水煮豆が缶やパックで売られています。キッチンに常備しておけば、思いついたときにすぐ作ることが出来ます。
【材料】(約4人分)
- タマネギ
1個 - ニンニク
2片 - ショウガ
1片 - 水煮缶のひよこ豆
1缶 - レモン
半分 - (ポストハーベストされていない国産のもの)
- ココナッツミルク
1缶 - オリーブオイル
大さじ3 - 塩
適宜 - クミン(ホール)
大さじ1〜2
【作り方】
スライスしたニンニクとショウガを、香りを移すようにオリーブオイルで炒めます。焦がさないよう、弱火が良いでしょう。
そこにクミンを加え、パチパチとしはじめたら、1cm角に切ったタマネギを入れます。塩を加え、タマネギが透き通るまで炒めましょう。この時、好みでガラムマサラを加えると、より香りが立つスープになります。
ひよこ豆を入れ、ひたひたになるくらいまで水を入れます。さらに、レモン汁を加え、皮の外側をすりおろして入れます。弱火で、ふつふつと軽く沸騰するくらいの火加減で10分くらい煮ます。
ココナッツミルクを加え、さらに全体がなじむまで数分、火を入れます。塩で味を調え、最後にレモンをぎゅっと絞って完成です。
◎できあがり
器に盛ったら、上からパクチーやクミンをあしらってもいいでしょう。ココナツミルクの香りとまろやかな味わいが楽しいスープです。
写真のようにパンを添えて、浸しながら食べるのがおすすめ。
ひよこ豆は食べ応えもあるので、ダイエットなどで炭水化物を制限している方は、パンは添えなくても十分おなかが満たされます。
ほうれん草と焼きタマネギのスープ
最後に、これまでに紹介した調理法や食材を応用して、とびきりのプラントベーススープをご紹介します。スープでありながら、メインディッシュとしてもぴったりの一品です。
この連載の4回目で登場した「タマネギのロースト」を使います。
【材料】(4人分)
- タマネギ
大2個 - ほうれん草
500g - トマト
中3個(水煮缶でも可) - ニンニク
3片 - 水
カップ1 - クミン(ホール)
大さじ1 - コリアンダー(パウダー)
大さじ1 - ガラムマサラ(あれば)
小さじ2 - 塩
大さじ1 - オリーブオイル
適宜
【作り方】
タマネギを皮付きのまま、半分に切って、オリーブオイルを上からかけまわします。中まで火が通るまで40〜45分、200℃のオーブンで焼きます。根は食べませんので、気になる方は先に根の部分を切り落としてもかまいません。
ただし、そのときにタマネギ全体がバラバラにならないように注意しましょう。
鍋に油を入れ、弱火でニンニクのみじん切りに火を通します。そこにスパイスを入れ、軽く炒めます。続いてほうれん草とトマトをざく切りにして加え、水を入れてほうれん草がくたくたに柔らかくなるまで煮ます。トマトの代わりに水煮缶を使ってもかまいませんが、缶は量が多いので、トマトの味が強くなる傾向があります。
ほうれん草が柔らかくなったら、ハンドミキサーですり潰し、滑らかにします。塩を加えて味を調えたらできあがりです。
◎できあがり
器にスープを盛ったら、上に焼き上がった熱々のタマネギを乗せてできあがりです。好みで、上に少しヨーグルトをのせても面白いでしょう。シンプルなタマネギのローストなのに、食べ応えがたっぷりのメインディッシュになるスープです。
◇◇◇
本連載では全5回にわたって、和・洋・中・エスニックと、さまざまな要素を取り入れたスープをご紹介してきました。どれも作り方は難しくありませんし、自分のアイデアを加えてアレンジしていくこともできます。
スープが好きなのに、どんなスープを作ったら良いのか思い浮かばず、カップのインスタントスープにしてしまう人も多いようです。今回紹介したスープをもとに、あなたなりのオリジナルスープをぜひ作ってみてください。
スープこそ、家庭の味の基本です。
美味しいスープが食卓にのぼる家庭は、きっと幸せです。
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