
スタミナアップ&夏バテ防止におすすめの肉料理を、管理栄養士の美才治真澄さんに教えていただきました。手軽においしく、そして見た目も美しく、かつ効率よく栄養が摂れるとっておきの夏レシピです。今回はお手頃価格とヘルシーさが人気の鶏肉です。脂質を控えるため、皮ははがして使います。
鶏肉の特徴は、アミノ酸の一種「イミダゾールペプチド」が豊富に含まれていること。渡り鳥やマグロ、カツオなどの回遊魚の筋肉中に高濃度に含まれ、食用肉では鶏胸肉に最も多いとされています。
イミダゾールペプチドの特徴は、活性酸素を除去する働きが強く、疲労回復を助けてくれること。ビタミンCと一緒に摂ると吸収率がいいので、ビタミンCたっぷりのパプリカなどと組み合わせると効果的です。
ただイミダゾールペプチドは水溶性なので、茹でると汁として溶け出てしまいます。いただくときは、できれば汁ごとで。
鶏胸肉はクセがなく調理しやすいですが、難点はパサついてしまうこと。パサつくのは、細胞の中の水分が流れ出てしまうからなので、水分を外に逃がさないようにすることがポイントです。
パサつき防止には調味料を活用します。
今回ご紹介する1品目では、まず、水分(酒)と塩で鶏肉の細胞に水分をたっぷり含ませ、その上ではちみつを揉み込みました。はちみつの中の糖には、含ませた水分を細胞中に留める保湿作用があるのです。
2品目ではお酢を使用しています。お酢(酸)は肉の線維をほぐして、柔らかくしてくれます。
1品目は、アクアパッツアの鶏肉版ともいえる、「鶏と夏野菜のアーリオオーリオ」です。肉と野菜を、オリーブオイルとニンニクを使って煮込みます。
皮をはがした鶏胸肉は、観音開きにしたら、厚みがある部分をフォークで穴をあけます。細胞を壊して、「酒・塩・はちみつ」をしみ込みやすくするためです。火も通りやすくなります。漬け込んで一晩おくなら、穴をあけなくてもしっかりしみ込みます。
酒は臭みを取るほか、肉を柔らかくする作用もあります。
鶏胸肉のイミダゾールペプチドの吸収率を上げるため、ビタミンCを含むミニトマトのほか、β-カロテン豊富なカボチャ、ビタミンEやポリフェノールを含むオリーブといった夏野菜をたっぷり使います。
見た目も鮮やかで食欲をそそる美しい仕上がりになります。
オリーブには、グリーンとブラックの2種類があり、今回はグリーンを使用。色の違いは実の熟し具合によるものです。グリーンの方がまだ熟していない若い実でブラックよりもビタミンEは若干多く、ポリフェノールも多めに含まれています。熟成したブラックの実は、グリーンに比べてまろやかなのが特徴です。
水分が出る料理なので、鍋か少し深めのフライパンを使います。そこにタマネギとニンニクを敷き、鶏胸肉を切らずにそのまま豪快にのせてください。野菜類も隙間を埋めるように投入しましょう。水と、コクを出すためにオリーブオイルを加えますが、脂肪分を控えたい場合はオイルなしでも。それでも十分、しっとりおいしく食べられます。
食べるときは、バゲットを添えて。パンに汁を絡ませれば、鶏胸肉から溶け出たイミダゾールペプチドを余すことなくいただけます。
キーンと冷えた白ワインが似合いそうです。
≪A≫
2品目は、そぎ切りにした鶏胸肉とビタミン豊富な野菜を炒めて、甘酸っぱく味付けた、これも夏らしい彩りの一品です。
肉をそぎ切りにするときは、柔らかな食感にするために、繊維を断ち切るようすることがポイント。
鶏胸肉には葉っぱのように、真ん中から放射状に筋肉の繊維が伸びています。その繊維に対して、垂直に(直角になるように)切っていきます。そうすることで、繊維が壊れて硬さを感じなくなるのです。
切り方ひとつで食感が違ってくるので、ぜひお試しください。
そぎ切りにしたら小麦粉をはたきます。煮汁にとろみをつけるためですが、外に肉の水分が抜けないようにする効果もあります。
一緒に炒める野菜たちも、夏にうれしい元気が出る食材です。
ビタミンCたっぷりのピーマンは、β-カロテンやビタミンEも含んでいて、抗酸化作用が高い野菜の代表格。
そのピーマン以上に注目したいのが、パプリカです。β-カロテンはピーマンの3倍近く、ビタミンCも2倍以上含んでいて、まさにビタミンの宝庫! もちろんビタミンEもたっぷりです。
ピーマンもパプリカも加熱してもビタミンCは壊れにくく、油で炒めることで甘みもアップします。
またパプリカは見た目がピーマンに似ていますが、ピーマンのように苦みはありません。それでも苦手意識がある場合は、すり下ろして使ってみてください。すりおろしても栄養素は壊れません。
炒まった肉と野菜に加えるトマト水煮にもβ-カロテンは含まれています。ここでお酢を投入。肉は柔らかくなり、煮る時間も短縮できます。
柔らかく煮た料理なので、器に盛ったら仕上げにピクルスを散らし、シャキシャキ食感を楽しんでください。
ビタミンがたっぷり摂れるほか、酢やピクルスを使っているので、クエン酸も加わったパワーみなぎる料理です。ご飯にカレーのようにかけると、ご飯が進んで止まりません。さっぱりといただける、クセになる夏のごちそうです。
管理栄養士、フードコーディネーター、女子栄養大学生涯学習講師。香川栄養専門学校(女子栄養大学短期大学部)卒業後、(株)ダイエットコミュニケーションズにて荒牧麻子氏に師事。企業、メディアに向けたメニュー提案や栄養相談、料理教室、オーダーメイドケータリングなどを中心に活動を行っている。
撮影◎粟井信行(昭和基地 ¥50)
スタイリング◎藤井玲子(cooking Clocca)
文◎江頭紀子