「タッチレス水栓」、使いやすさの秘密 第2回

「3つの技術」を強みに、新たな挑戦へ!

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業界初! ホース引き出しタイプでの
タッチレス水栓の完成

「電子」+「水栓」+「浄水」の3つの技術で新たな水栓開発に挑んだ開発チームでしたが、実現までにはいくつもの壁がありました。
 なかでも難題だったのが技術の壁です。当時すでに一般化していた「引き伸ばしができるホース」は、キッチンにはなくてはならない便利な機能。シンクを隅々まで洗うことができ、日常的に重宝している方も多いと思います。

「その“引き伸ばせるホース”と“センサー”を両立させるのに、相当苦労しました。洗面台のときと同じように吐水口近くにセンサーを内蔵すると、ホースが引き出せなくなるし、本体側に内蔵すると、奥のほうまで手を伸ばさなくてはならず、ハンドル操作と変わりなくなってしまいます。センサーを横につけたりもしましたが、最終的に、上部につけることで収まりました。ほかにもセンサーの誤検知問題や施工方法など、複数の技術的な課題をクリアしなくてはなりませんでした」

初代ナビッシュ。

 さらに、いかにスッキリしたデザインにするか、頭を悩ませました。さまざまな試行錯誤をした結果、ガチョウの首のような形をした「グース(ガチョウ)ネックスタイル」に決定。見た目が外国製のようにオシャレで、この形であれば、蛇口が邪魔して洗いにくかった大鍋や大皿も洗いやすそうです。

 こうして2005年に初代ナビッシュが完成。ホース引き出しタイプのキッチン水栓では、業界初のタッチレス水栓という、快挙を成し遂げました。

工夫に満ちた初代ナビッシュ。
しかし「やり残したことがある…」

「そのほかに、実は、ちょっとした工夫があるんですよ。例えばシャワーヘッドです。これまでのシャワーヘッドはドーナツ状になっていて、真ん中は整流(まっすぐな水)を流すための構造をしているのが通常でした。ところがナビッシュではシャワーの中抜けをなくし、シャワーの密度を高くすることで気持ちよく汚れを洗い流すことができる構造を実現しました。もちろん整流にも切り替えることができます」

 これは、「スポット微細シャワー」というそうです。なるほど、シャワーヘッドの全面から水が出ていれば、水量が増えるのでその分、早く洗えます。しかもきめ細やかなシャワーなので、手触りがよく、モノが洗いやすそうです。

 また、浄水の切り替えにもタッチレスのセンサーを搭載。これは今でも同社だけのオリジナルとか。カートリッジの取り付けは、シンク下のキャビネット内にでき、スペースの節約と簡単交換を実現しています。こうしたことができるのも、カートリッジも自社生産しているからだそう。

 こうして初代ナビッシュは、一般家庭のキッチンにタッチレス水栓を浸透させる一役を担うようになりました。しかし、清水さんは満足しませんでした。「やり残していることがある」と、自らに“宿題”を課していたのです。それは、「検知機能の精度をより高くすること」と「デザインをより洗練させること」でした。

「初代ナビッシュは、センサー部分に黒パネルが取り付けられていて、どちらかというとメカニックなデザインです。これをもう少しスタイリッシュにしたかった。また、初代ナビッシュにはパネル部分と吐水口部分に段差がありますが、これをなくせば掃除もしやすくなります。つまり、出っ張りやむだな線をなくして、極限までスリムにする。よりスッキリしたデザインにしたかったんです」

リビングの一員だから
「うしろ姿の美しさ」にこだわりたい

 清水さんがここまでデザインにこだわるのには、「美しいものが日常空間にあれば心地よく、暮らしが豊かになる」という信念があるからです。
 キッチンがリビングに近い存在となってきていることも一因です。

「この頃からキッチンは、オープン型やアイランド型が主流になってきていました。そうなると、もはやキッチンもリビングの一員です。つまり、水栓も見られる立場になったわけです。であれば、美しいほうがいい。リビングから見ても違和感のないデザインにしたいと思いました」

 加えて、機能とデザインの関係についてもこう語ります。

「機能のよさは実際に使ってみないとわかりません。しかし、その“使ってみよう”と思うきっかけは、“素敵だな”と感じるデザインの要素が大きいのです。くせのあるデザインだと購入のハードルは高くなってしまいますが、誰が見ても“いいな”と感じるデザインであれば、買ってみよう、使ってみようと思う方も多くなります」

 そこで、「うしろ姿の美しさ」を開発コンセプトに、オープンキッチンにも映える、機能もデザインも究極のキッチン水栓を目指して、2代目ナビッシュの開発に挑むこととなりました。
 しかし、その実現には初代ナビッシュ以上の困難が待ち構えていました。
 初代ナビッシュは、センサー部分はホース部分とは別パーツで、そのパーツをパイプの上部にはめ込んでいましたが、よりスッキリしたデザインにするためには、センサーとホースを一体化させる、つまり、細長いパイプに両方の機能をまとめなくてはならなかったのです。

「直径3cmのパイプの中に、センサーと複数のケーブル、そして引き伸ばしできるホース、それらをすべて収めなくてはなりませんでした。もちろん、ホースを引き出す際に、ケーブルを傷つけないよう、またケーブル同士も擦れて摩耗してしまわないようにしなくてはなりません。そのためには仕切りを入れるなど、内部の構造から開発し直さなくてはなりませんでした。それぞれの部品の小型化も必要でした」

「絶対無理」とのささやきも聞こえる中、清水さんたちは、お客さまの笑顔を思い浮かべながらゴールを目指すことになりました。

(第3回に続く)

◎お話を伺った方◎

清水和幸さん

LIXIL水栓事業部水栓開発部。LIXIL(当時INAX)入社以来、水栓開発一筋15年。入社2年目からキッチン用ナビッシュの開発に携わり、その後、洗面用ナビッシュなど多くの商品を開発した。現在は浴室向け水栓の開発に従事している。夢は「タッチレス水栓といえば“ナビッシュ”!」と言われるほど「ナビッシュ」が世の中に普及・浸透すること。

文◎江頭紀子

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)