「タッチレス水栓」、使いやすさの秘密 第1回

快適な水栓で“豊かな暮らし”を叶えたい

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「便利で快適な水栓を家庭にも!」と意気込んだが…

「料理中、手が汚れたり濡れたりしたまま、水栓を使いたくない」
「両手がふさがっているときに水を出したい」
「いちいち操作するのが面倒だから、つい出しっ放しにしてしまい、全然エコじゃない」

 キッチンでありがちな、そんなお悩み。使いづらいと家事がはかどらないばかりか、イライラして生活が楽しくなくなってしまいます。

「お客さまのこうしたお悩みを解決したい。そんな思いで開発したのが、タッチレス水栓ナビッシュです」と開発の中心を担った清水さんはいいます。
「ナビッシュ」とは、「ナビゲートウォッシュ」を省略したもの。「水をナビゲート(案内)する」という意味が込められています。
 その名のとおり、水栓に触れなくてもセンサーに手をかざすだけで水を出したり、水を止めたりすることができます。しかも、ホースを引き伸ばせるため、シンクを隅々まで洗うことも可能です。
 そうした便利な機能がついているだけでなく、360度どこから見てもスタイリッシュなデザインなのがナビッシュの大きな特徴。通常の水栓のように無機的な直線ではなく、やさしい曲線を描いているので、家事もなんだか楽しくなりそうです。ちなみにこの曲線を描く水栓は「グースネック(ガチョウの首)スタイル」というそう。従来の直線タイプの水栓よりも懐が深いので、シンク内を広々と使えます。大きな中華鍋などもラクラク洗えそうで、デザイン性と機能性を兼ね揃えているといえます。

 2005年に初めて市場に登場したナビッシュは、浄水機能を追加したり(2006年)、手元ライトをより明るくしたり(2007年)とマイナーチェンジを経て、2009年に「これ以上完璧なものはない」と清水さんも胸を張る「2代目ナビッシュ」を発表。現在、多くのご家庭に採用されています。
 吐水口部分にもセンサーをつけた「ナビッシュハンズフリー」や、電源がなくても設置ができる乾電池式タイプのものなど、さまざまなバリエーションが登場しています。

 今やキッチンの“顔”になりつつあるタッチレス水栓ですが、その誕生は1980年代、医療施設などからの非接触ニーズに応えたことがきっかけでした。その後、公共トイレなどにも普及し始め、リクシル(当時はINAX)では、世界初の自己発電式自動水栓「オートマージュ」を洗面化粧台用として発売。吐水口(水が出る先端部分)に手をかざせば、センサーが反応して自動で水が出て、自動であるにも関わらず電力コストがまったくかからないことが評価され、第1回省エネ大賞を受賞しました。

他社にはない「センサー技術」を活かす

 同社には、他社にはない強みがありました。それは「センサー技術」です。
「水が自動で出る」には、「センサー技術」が必要です。

 通常水栓をつくる住宅設備メーカーは、水栓はつくっても、そこに内蔵されるセンサーまでは専門外なので、外部専門メーカーに依頼することが多いです。ところが同社には、電装開発部門がありました。センサーを自社開発できる技術やノウハウが蓄積されていたのです。

「もちろん、センサー開発を他社にお願いすることもできました。しかし、自社で一貫したほうが時間もコストも削減できます」

 清水さんは、自社開発は私たち消費者にもメリットがある様子を語ります。さらに同社には、洗面化粧台の「オート水栓」を実現した先駆的な技術がありました。また、浄水カートリッジをスマートに内蔵したオールインワン浄水栓の技術も確立していました。
 つまり「電子技術」+「水栓技術」+「浄水技術」という3つの技術を社内で併せ持つという、他社にはない強みがあったのです。この強みを活かして、消費者のお悩みを解決すべく、新たにキッチン水栓を開発することになったのです。
 その中心を担うこととなったのが、ちょうどこの頃に中途入社をされた清水さんでした。

「豊かな暮らし」に憧れるだけでなく、
つくり手として貢献したい

 清水さんは、前職はカーナビなどの回路設計の技術者だったそうです。

「私が採用されたのは、電子技術を活かして新たなキッチン水栓をつくるために、電気系の技術者を強化しようということが背景にありました。また、新たな商品づくりには新しい発想力が求められていたのだと思います」

 自らの役割をそう語る清水さん。実際にセンサーをつくるのは電装部門ですが、自身もつくる立場だったこともあり技術者の気持がわかるため、スムーズな連携ができたといいます。
 実は清水さんが転職した理由のひとつに、当時のINAXのCMの影響があったそうです。

「そのCMは『豊かな暮らしづくり』を提案していました。私はちょうど、結婚して子どもが生まれた頃。新しい家族を持ち、暮らしに関心を寄せるようになっていました。こんな暮らしをしてみたいと、CMに憧れると同時に、自分も豊かな暮らしづくりに貢献したいと思いました」

「豊かな暮らし」とは、具体的には一人ひとり異なると思いますが、決してお金をかけるだけの暮らしではないはずです。ホッとしたり、気分がアガったり、何より「心地いい」と感じる暮らしの場があることが大切です。
 私たちが生活する上で大切なものはたくさんありますが、トイレや浴室、キッチンなど、とくに水回りを構成する住宅設備機器は日々の暮らしに不可欠で、かつ清潔感や機能性が重要視される部分です。それらが使いにくかったり、見た目が好みでなかったりすると、愛着が湧きません。「豊かに暮らす」とはかけ離れてしまいます。
 逆にいえば、「ほしい」機能が揃っていて、かつデザイン性も高くて気分がアガり、快適に使えるものならば、「豊かな暮らし」の実現に近づけるといえます。

 そんな「豊かな暮らし」を現実のものにするために、3つの技術を武器に、清水さんたち開発チームは“決起”しました。しかしその道のりは、けっして平坦ではありませんでした。

(第2回に続く)

◎お話を伺った方◎

清水和幸さん

LIXIL水栓事業部水栓開発部。LIXIL(当時INAX)入社以来、水栓開発一筋15年。入社2年目からキッチン用ナビッシュの開発に携わり、その後、洗面用ナビッシュなど多くの商品を開発した。現在は浴室向け水栓の開発に従事している。夢は「タッチレス水栓といえば“ナビッシュ”!」と言われるほど「ナビッシュ」が世の中に普及・浸透すること。

文◎江頭紀子

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)