火入れの加減で
味や香りが変わる
左から「浅煎り」「中煎り」「深煎り」のコーヒー豆
焙煎(ロースト)とは、生豆を加熱する作業です。生豆は白みを帯びた薄い黄緑色をしており、この状態で挽いても一般的なコーヒーの味にはなりません。生豆に熱を加え焦がすことで、コーヒー独特の香ばしさや味わいが生まれるのです。普段よく目にするコーヒー豆は、生豆が焙煎された後のものということになります。
焙煎度を大きく分けると、「浅煎り」「中煎り」「深煎り」です。「浅煎り」は焙煎時間が短く、「深煎り」は時間をかけて加熱したもので、その間が「中煎り」となります。
「ステーキにたとえると、表面のみに薄い焼き色がついた『レア』が『浅煎り』、焼き色がつき中心部がわずかにレア状態の『ミディアム』は『中煎り』、しっかり焼き色がついて中まで火が通っている『ウェルダン』が『深煎り』です」
熱する度合いによって、コーヒーの風味や味が変わります。例えば、「生産国:エチオピア、品種:ゲイシャ」というコーヒー豆を選んでも、「浅煎り」か「深煎り」かどうかで、酸味や苦みが異なるのです。
味の違いについて「加熱時間が長くなるほど、豆が茶色く黒くなり、香りが強くなる『メイラード反応』と『キャラメル化』が進むんです。
そのため『深煎り』は砂糖が焦げたような甘く、苦く、しっかりと重たい風味になります。一方『浅煎り』はフレッシュな風味と軽やかな香りで、酸味が強調されますね。『中煎り』はその中間で、酸味・甘み・苦みのバランスがとれている傾向です」と、木原さん。
「深煎り」は初心者でも
安心して淹れられる
自分でドリップコーヒーを作るときに、おすすめの焙煎度はあるのでしょうか。
「『深煎り』の方が『浅煎り』より、簡単に失敗なくドリップできますよ。
『浅煎り』はプロでも繊細な作業を要するほど、難易度が高いです。しっかり甘さとボディを出すように調整しないと、酸味がきついコーヒーになってしまいます。テクニックが必要なので、ドリップコーヒーの経験値が低い人は『深煎り』から始めることをおすすめしていますね」
それでも「浅煎り」を自宅で味わってみたいという方に向けて「豆を自分で挽かずに、専門店の高性能なグラインダーで挽いた粉を使うと、失敗のリスクを減らせます」と、アドバイス。
また「深煎り」を淹れるときにも注意点があります。
「焙煎したての『深煎り』は、粉にお湯を注いだときにガスがポコポコと出てしまうことがあります。そうするとお湯がガスに遮られ均一に粉を通過せず、おいしく抽出できません。
それを避けるために、豆の状態のまま常温で少し寝かしてエイジングさせましょう」
エイジング(=熟成)はおいしいコーヒーを味わうために、どの焙煎レベルでも行いたい工程です。最適な熟成日数について教えていただきました。
「春、秋、冬の季節では、『浅煎り』と『中煎り』は2週間、『深煎り』は3~4週間寝かすのがおすすめです。暑い季節だと熟成が早く進むので、夏は上記の日程よりマイナス1週間を目安に熟成させてください」
コーヒー豆をおいしく
保存するアイデア
エイジングした豆を、ベストな状態で保存できるアイデアも教えていただきました。
「冷凍するとベストなエイジングの状態を保てます。エイジング後、豆を密閉容器に入れ冷凍庫で保管するだけです。1年間ほどはおいしさをキープできます。
焙煎したての豆を冷凍してしまうとフレッシュすぎるので、常温の状態で寝かす工程を忘れないようにしてください」
粉でなく豆を買うときに覚えておきたい方法です。また、エイジングを正確に行いたい人はコーヒー豆を買う際、スタッフに焙煎してから経った日数を聞いてみてもよいでしょう。
また、コーヒー豆は収穫された生豆のまま輸入され、日本国内で焙煎した後に店頭に並ぶのが一般的です。
購入時に気を付けたいことについて、木原さんは「お店によって焙煎方法や使用する焙煎機が異なり、味や風味も変わります。例えば、同じ生豆をA店とB店で『浅煎り』にした場合でも、同じ味になるとは限りません。
さらに『浅煎り』または『深煎り』のみに特化した専門店があったりと、店舗により煎り方の得意・不得意があったりするので、気になる方はお店の人に問い合わせてみるといいですよ」と、アドバイスします。
次回は、食事との組み合わせやコーヒーカクテルのレシピなど、コーヒーの楽しみ方が広がる方法を紹介します。
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