おうち栽培の達人に訪れた最大のピンチ
「海外出張などで何日間も家を空けるときは(植物の世話をする人が家に誰もいなくなるので)、心配で心配で。私はプランターや植木鉢をお風呂場に移動させて、少しだけ水をはった湯船の中に置きます」
ベランダでの植物栽培において、台風の接近はなおのことドキドキ。一度、油断して被害を受けてからは、事前に避難させたり、頑丈に支えを付けているそうです。
このように、さまざまな危機を乗り越えながら発展してきたおうち農園ですが、宿輪さんが「過去最大のピンチだった」と振り返るのが、マンションの大規模修繕でした。
台風で被害を受けてから、台風情報に注意して、必ず事前に風呂場などに移動するという。
新築後10年目で行われ、ベランダに置かれたものはすべて撤去しなくてはならなかったのだそうです。マンションでは、屋上にスペースを確保してくれたため、一部はそこに避難できましたが、半分ぐらいの植物は浴室に避難させました。植物を日に当てられないので、枯れるのではないかと心配したそうですが、なんとかもちこたえたそうです。
当然、湯船は植物でいっぱいですから、お湯につかることはできません。シャンプーや石鹸が植物にかからないように注意深くシャワーを浴びる生活が続きました。
「重いプランターや植木鉢を何度も運びしましたし、水やりも大変でした。次の大規模改修で同じことをしろと言われたら、もう引っ越すしかないかも(笑)」
ベランダ栽培ならではの落とし穴
ベランダは限られた空間ですから、プランターや植木鉢を置くにも限度があります。また、プランターや植木鉢の数が多くなれば置く場所によっては日が十分に当たらず成長が悪くなるといったこともあるそうです。さらに問題はそれだけではなく、気をつけなくてはならないことも増えてきます。
一つは排水の問題です。ベランダは、基本的に「雨水を流せればいい」という発想で設計されています。ですから、外に向かってゆるやかに傾斜がつけられていることが多いのですが、プランターや植木鉢の置き方によっては、排水を妨げてしまうことがあります。
また、栽培している植物の落ち葉が排水口をふさいでしまうこともあります。
宿輪さんは掃除をこまめにしているようですが、排水まわりの掃除で重いプランターを持ち上げた瞬間に腰を痛めたこと(ギックリ腰)があるそうです。
狭いベランダでの「農作業」は窮屈な姿勢を強いられることがありますので、この点は特に注意したいたほうがいいとは、栽培の達人・宿輪さんからのアドバイスです。
口に入るものだから無農薬にこだわる
トマトとナス。この夏も宿輪さんのベランダ農園は豊作だった。
研究室の三尺バナナ。枯れた葉っぱとダンゴムシの糞を肥料に、すくすくと育っている。「もうすぐ実をつけるはず。それを楽しみに丹精しています」と宿輪さん。
宿輪さんはすべて無農薬で育てています。
それにこだわるのは、もちろん口に入るものだからです。
「食事の前に食べる分だけ作物を収穫して、たとえばサラダにしてさっといただく。とにかくおいしい。これ以上新鮮で安心な食材はありません」
そして、ベランダに昆虫や時には貴重な野鳥もやってきて、宿輪さんの作物をつまみ食いする。生き物が寄ってくる環境は大切にしたいという点でも、農薬は使わないのが宿輪さんの流儀なのです。
ベランダが手狭になったからというわけではありませんが、宿輪さんの農園は、職場である大学の研究室にも拡張しています。2mほどに伸びたサボテンのほかに、南方系の大きな葉の植物が置かれています。
「三尺バナナなんですよ。もともと沖縄のものなのですが、室内なら東京でも育ちますし、3尺(90センチを超えたので)おそらくもうすぐ実をつけるはずです」
無農薬はもちろんのこと、肥料は枯れた葉っぱを干して細かくして堆肥にしたもの。
「根元に敷きつめた肥料の下にはダンゴムシがいます。彼らの糞も肥料になります」
ここでも無農薬の有機農法で育てています。
おうち農園は、自宅だけでなく職場でも、わずかなスペースがあれば楽しめるものなのです。
取材の最後に、経済学者の立場で、おうち農園がもたらす経済波及効果はについて尋ねてみました。
「なんといっても「環境問題」の解決策の一つですね。植物は二酸化炭素を吸収し酸素を排出しますし、ベランダのグリーン・カーテンはエアコンの消費電力低下に貢献しています。たとえ小さなおうち農園であっても、地球環境を守ることに貢献しているわけです。一人ひとりが植物を育てれば、地球温暖化にブレーキをかけることにつながり、間接的に経済にも影響します。ただ、このバナナもそうですが、植物を育てると環境には敏感になりますね」
おうち農園を始めると、日常生活の中で、植物の生育の中で、環境問題にも視野が広がっていくようです。
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