きっかけは市民農園の土いじり
ごくごく普通のマンションの1坪半のベランダに、野菜や果実、バラやサクラなどが植えられた22個のプランターや植木鉢がぎっしり。
「狭いながらも楽しい宿輪のベランダ農園」というグループでフェイスブックに記事をアップしているのが、宿輪純一さんです。経済学博士であり、帝京大学経済学部教授や、会員1万2000人を超える社会貢献公開講義「宿輪ゼミ」代表などを務める宿輪さんのもう一つの顔が、おうち農園主です。
ベランダ農園のプランターと植木鉢の配置図を描く宿輪さん。1坪半の農園に22種類の植物が並ぶ。
「20年ほど前、マンション暮らしで土との接点がないので、市民農園を借りたことがきっかけです。2坪ほどの小さな区画の農地に毎日のように通い、季節の野菜を育て収穫し、それを味わう楽しみにすっかりはまってしまいました」
しかし、市民農園を借りられるのは2年間で、抽選で落ちてしまいせっかく栽培の技術が身についても、農園を手放さなければならい現実がありました。
なんとか栽培を続けたい。そこで目を付けたのが自宅マンションのベランダでした。
「日当たりは良好というわけではありませんが、プランターや植木鉢に種をまき、丹精していく。日ごとに大きくなるその成長が楽しい。そして、うまくいくとことが確信できました」
再び育てる楽しみを味わい、そうこうしているうちにプランターや植木鉢の数が増えていきます。いまや1坪半のベランダに、22個のプランターや植木鉢が置かれるほどになりました。
野菜や果物ほかバラや河津桜などの観賞用の植物もベランダを彩る。
果物のタネは植えても実らない。
味わいたければ鉢植えがおすすめ
アボカド。食べた後の種を植えるのも楽しいという宿輪さん。たとえ実がならなくても、植物が成長していく姿が愛おしいそうだ。
レモンは東京でも育つ。料理を楽しみお酒が好きな宿輪さんにとってレモンは欠かせない収穫物。
宿輪さんは果物も育てています。
例えばアボカド。スーパーで購入して食べ終えた後の種をプランターや植木鉢に植えました。
「スーパーマーケットなどで売られている果実の種は、まいても実がならないように操作されているものがほとんど。けれど、たとえ実がならなくても、芽が出て大きくなるだけでも楽しいものです。実をつけるのを楽しみたいなら、鉢植えで実がなっているものを買った方がいいですよ」
宿輪さんの農園で圧倒的な存在感を醸し出しているのがレモンです。「こればかりは収穫したい」と、実がなっている鉢植えを購入したのだそうです。
レモンの原産地はインド東部のヒマラヤ。柑橘類は温暖な気候でないと育たないイメージがあるかもしれませんが、実は、東京でも立派に育つのです。
「これがまたおいしいんです。採れたてのレモンを絞って料理にかけたり、お酒の香りづけにしたり、重宝しています」
羽化して宿輪農園から飛び立ったアゲハチョウ。ベランダ農園の楽しみは味を楽しむだけではなさそう。
ただ、柑橘類はアゲハチョウが好んでやってくるので、虫の嫌いな方はおすすめできないそうですが、「羽化して飛び立つ姿をスマホ動画で撮影してフェイスブックに公開しました。さなぎになり、そこから美しいチョウが飛び立っていく。実に感動的でした」
宿輪さんの場合、植物だけでなくすべての生き物が愛おしく感じるそうですが、丹精込めて植物を育てていくと、猫や犬といったペットを飼う感覚に近くなるのかもしれません。
ベランダ農園には、「味を楽しむ」ということのほかにも、さまざまなメリットがあるのですね。
(後編に続く)
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