淡路瓦の産地を訪ねて [第2回]

“今”に挑む、鬼師という瓦職人

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前回に続く淡路瓦の魅力を辿る旅で訪れたのは、タツミ。鬼瓦を製作する職人、鬼師を擁する淡路島の工房です。鬼瓦とは、古くより建物を守るとされた魔除けの瓦。鬼面のほか唐獅子、などが代表的なモチーフですが、日本の伝統建築が減少する中、どのような展開を図っているのか。同社の若き3代目・興津祐扶さんに話を伺いました。

伝統の技に現代的な感性を加えて

特注の飾り瓦を一つ一つ手作業で製作中。細かな文字も入れなど繊細な表現が可能なのは、淡路の良質の粘土だからこそ。

 現在タツミで腕を振るう鬼師は4人ほど。興津さんによると、鬼師は非常に少なくなって全国で約50人、淡路島でも10人ほど。島内で集団でやっているのは同社だけとのこと。鬼師は土台の上に何度も盛り土を重ねたり削ったり、数十本のヘラと指で数日かけて鬼の面を成形。一般的な瓦に比べてボリュームがあり精緻な分、大きなもので3カ月、通常でも半月を要してゆっくり乾燥。その後、焼成・燻化して、ようやくダイナミックな鬼瓦が完成します。

伝統の技に現代的な感性を加えて

素材・形状が異なる多様なヘラを使い分ける。ヘラの作り手も減っており、場合によっては鬼師自ら道具を製作することもあるそう。

屋根に取り付ける鬼瓦は見下ろすことを考慮して、形のバランスを決めていく。

 現在タツミで腕を振るう鬼師は4人ほど。興津さんによると、鬼師は非常に少なくなって全国で約50人、淡路島でも10人ほど。島内で集団でやっているのは同社だけとのこと。鬼師は土台の上に何度も盛り土を重ねたり削ったり、数十本のヘラと指で数日かけて鬼の面を成形。一般的な瓦に比べてボリュームがあり精緻な分、大きなもので3カ月、通常でも半月を要してゆっくり乾燥。その後、焼成・燻化して、ようやくダイナミックな鬼瓦が完成します。

 タツミの看板といえる、受け継がれてきた鬼面もあるものの、今は現物写真とともにその復元の依頼が多いそうです。2次元を3次元に展開する難しさは想像に難くありません。そんな際は土と向き合う前準備、図面を描く作業などを興津さんが担当して、鬼師をサポート。「最近は瓦だけでなく、オブジェやインテリア小物などを手がける機会も増えました。ただ、鬼師の方々には、あくまでも鬼瓦を作る鬼師でいてもらいたい。そう願っています」と興津さん。本来の鬼師としてのアイデンティティが失われないよう、今後も大切に守っていく決意を語ってくれました。

瓦の未来を受け継ぐために

タツミ(http://tatsumi-oni.co.jp/)の3代目オーナー・興津祐扶さん。今年1月に常務から社長に就任したばかり。

淡路瓦のアロマストーンとオイルのセット(右)は市内の観光ホテルで販売中。メールオーダーで鐘馗のオブジェ(左)を米国の顧客に販売するなど、市場を少しずつ拡大。

 大学卒業後は大阪の写真スタジオで活躍していた興津さん。家業に携わってからはすぐに、日本の建築にはなくてはならない淡路瓦の魅力に取り憑かれたといいます。そしてその素晴らしさを広く伝えていこうと、持ち前のクリエイティブな発想でいろいろな試みを行ってきました。その一環として、2006年に工場横に『Ibushi Gallery 瓦廊』を創設。観光バスの乗り入れを誘致し、工場見学や作品の販売を行うほか、インスタグラムで情報を発信中です。

「職人の仕事ぶりを見たり、ギャラリーで実物に触れたりすると、今まで瓦に全然関心のなかったお客様にも興味を持っていただける。それが一番嬉しいですね」と興津さんは言います。

土に込めた想いは変わらない

平池信行さんの工房&ギャラリー『ぶっちぶっち』。

平池さんの作品は、淡路島の土を使って焼いた、独特な表情の灰釉陶器。

 見学の最後に興津さんが案内してくれたのは、同社の敷地の一角に立つ陶芸家・平池信行さんの工房&ギャラリーです。平池さんは元鬼師。2002年日韓共催のFIFAワールドカップを記念して企画され、現在は『淡路ワールドパークONOKORO』に常設展示されているサッカーボール型の淡路瓦製モニュメントの製作リーダーでもありました。年齢を重ねて一線を退き、現在、手がけるのは小ぶりな器の数々。しかし鬼瓦とは比べ物にならないほど小さくても、用いる土は全て淡路産。淡路の土に込める熱い思いは、今も変わっていないようでした。

瓦の建築作品を探して島を巡る

『いらか公園』内の「青海波ピラミッド」。高さ約5mで上から見ると細長い三角形の、のし瓦を積み上げたモニュメント。

『南あわじ産業文化センター』のエントランス通路(縁)。同施設では、管理棟の本葺(ほんぶき)瓦のほかに屋根以外の新しい瓦の使用法やデザインが見られる。

松帆西路の交差点に降りたった、厳しい形相の鬼瓦。

 淡路瓦を巡る短い旅の締めくくりに、今回、島内で出合った淡路瓦の作品たちを幾つかご紹介します。まずは南あわじ市周辺からスタート。生産の中心地だけあり、建築例も豊富です。

松帆西路のこちらの鬼瓦は鮮やかな朱色が目を引く。

布袋さんをかたどった松帆西路の飾り瓦。

恵比寿さんをかたどった松帆西路の飾り瓦。

建物全体を本葺瓦で覆った『いらか公園』の駐車場前のトイレ棟。

『陸の港西淡』の建物は、本葺瓦をメインに和型桟(さん)瓦と丸瓦のいぶし瓦を組み合わせた。

「アルチザンスクエア」にある『淡路ごちそう館 御食(みけつ)国』(http://www.miketsu.jp/)。和形のいぶし瓦がレトロな建物にマッチ。

「アルチザンスクエア」の洲本図書館は、雑誌主催のコンテスト「一度は訪ねて読書をしたい美しい図書館」で西日本第3位に選出。

 次は島の商業の中心である洲本市。明治時代に建てられ、市の近代化に大きく貢献した旧鐘紡洲本工場の建物群を生かした「アルチザンスクエア」は街のランドマーク的な存在。屋根を葺き替えるなど貴重な赤煉瓦の建物の修復を図り、レストランや図書館として再利用されています。

自然との共生をテーマに設計された『淡路夢舞台』(http://www.yumebutai.co.jp/index.html)の国際会議場の円形屋根に淡路瓦を使用。

 そして本州に近い淡路市には、第1回でご紹介した淡路SA内に建つ建物のほかに、淡路を代表する大規模複合商業施設『淡路夢舞台』でも淡路瓦を使用しています。国際会議場やホテルを擁する、建築家・安藤忠雄が手がけたスペクタクル空間は一見の価値あり。

淡路SA内の『スターバックス淡路SA店』。

淡路SA内のイタリア料理店『ポンテメール』。

瓦の未来について

瓦や牛肉とともに淡路の名産といえる玉ねぎ。甘味を増すため自然乾燥をさせている風景が、島内のあちこちで目についた。

 日本の伝統美をベースにしつつ、黒いぶし瓦やデザイン性の高い景観材を開発し、モダンな進化を遂げる淡路瓦。国内では日本家屋の減少が続く厳しい状況ながら、その素材としての高い機能・性能や、テクスチャの比類なき美しさが海外で、あるいは建築材以外の用途として、改めて注目を集めつつあるようです。「将来、戸建ての自邸を建てる機会があれば、あのマットな質感をたたえた黒いぶし瓦をどこかに取り入れたい」。淡路を離れる頃には、そんな気持ちが芽生えていました。

※LIXILは焼き物の里・愛知県常滑にて、明治中期に発祥しました。以来、ものづくりにこだわり続け、調湿・脱臭効果のあるエコカラットなども開発しています。詳しくは以下のページをご覧ください。


INAX ものづくりのはじまり

www.livingculture.lixil/ilm/terracotta/about/start/

エコカラット

www.lixil.co.jp/square/interview/voice_06/

文◎友永文博 撮影◎太田隆生

連載「淡路瓦の産地を訪ねて」の記事

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