家を守るかなめ……門・玄関まわり・フェンス大研究 [第3回]

耐震・防火・防犯に叶う「門」、ザルな「門」

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いたるところに危険なブロック塀が存在

老朽化し隙間が生じている塀。少し危険を感じる。(写真◎三星雅人)

 2018年に東京・練馬区が区内のブロック塀をくまなく調査したところ、実に1万8000件の不具合が見つかり、そのうち1600件に傾きやぐらつきがありました。東京のたった一つの自治体でこの数です。全国にはどれくらい危険な塀があるか、想像もつきません。

 国土交通省は以下の「ブロック塀等の点検チェックポイント」を作成し、「一つでも不適合があれば危険なので改善しましょう。一つでも不適合がある場合や分からないことがあれば、専門家に相談しましょう」と、注意を喚起しています。

  • 塀は高すぎないか → 塀の高さは地盤から2.2m以下か
  • 塀の厚さは十分か → 塀の厚さは10cm以上か
  • 控え壁(補強壁)はあるか → 塀の長さ3.4m以下ごとに、塀の高さの1/5以上突出した控え壁があるか
  • 基礎があるか → コンクリートの基礎があるか
  • 塀は健全か → 塀に傾き、ひび割れはないか
  • 塀に鉄筋は入っているか → 塀の中に直径9mm以上の鉄筋が、縦横とも80cm間隔以下で配筋されており、縦筋は壁頂部および基礎の横筋に、横筋は縦筋にそれぞれかぎ掛けされているか

低いブロックとフェンスの組み合わせが主流

古い塀を撤去して、ブロックとフェンスでリフォーム。(写真◎三星雅人)

「リフォームの現場でよく見かけるのが、鉄筋も入れず、ブロックをただ積み上げただけの塀です。手で揺らしただけでぐらぐらするものもあります。このような塀を、外側から鉄骨などを使って補強する方法もありますが、私は新たにつくり替えることをおすすめしています」

 こう語るのは、テレビのリフォーム番組でもその手腕を紹介された森村厚建築設計事務所の森村厚さんです。

 万一、塀が倒れ通行人に被害を負わせた場合は家主の責任です。特に老朽化した高い壁は危険です。前述した点検チェックポイントに一つでも該当していれば、速やかに手を打つべきでしょう。

 自治体によっては、古い塀の撤去費用やつくり替え費用の助成をしているところもあります。巨大地震の被害予測がしばしば報じられていることもありますので、ここは災害に強い塀にリフォームしていきたいものです。

 しかし、いくら助成があるといっても、すべて撤去してつくりかえるとなれば手間もお金もかかります。森村さんは、コンクリートの基礎があるブロック塀の場合、下の数段を残し、軽量なフェンスと組み合わせるのはどうかとアドバイスします。

「予算的にもリーズナブルで、なにより安全を担保できるからです」

隠して防犯、見せて防犯

 塀には防犯効果があるとされます。高いほど、外部から侵入しにくいでしょう。高級住宅街では、まるで要塞のような高い塀に囲まれた家を目にすることがあります。

背の高い塀は、見た目にも人を寄せ付けにくい圧迫感をもつが、一度侵入されると外から賊の気配を感じられないというデメリットもある。(写真◎三星雅人)

「確かに高い塀のほうが安心感はありますね。しかし、一旦侵入を許すと高さがあだとなり、外から見えません。逆に塀が低く、フェンスのように目隠しにはなるけれど、人の動きや気配が外からわかるほうが、犯罪者は嫌がります」

 このように防犯という点で、あまり背の高い塀はおすすめできないようです。
 門まわりも威圧感があると、客人を入りにくくさせているかもしれません。いまは防犯カメラという便利なグッズがあるので、うまくバランスをとった門まわりリフォームを心がけるのも一手といえましょう。

塀で火災の延焼を防ぐ

 日本は木造住宅が多いので、火災が起きると延焼するリスクがあります。もらい火の場合、火元の家に損害を請求できません。ですから、金銭的には自身で加入する火災保険に頼らざるを得ないのです。現在は耐火性能の高い外壁材が主流となっていますが、塀で延焼を防ぐことはできないでしょうか。

「田舎や郊外の住宅で、土地に大きなゆとりがあるなら防火をあまり意識する必要はありませんが、住宅密集地域では防火の備えがあると安心です」

 大きな木造建築(延べ床1000平方メートル以上)の場合、建築基準法によってコンクリート製の塀を設けることが義務付けられています。一般の住宅でここまでの規模があることは稀ですから、基準どおり防火壁を設置する必要はありませんが、ガソリンスタンドや工場の防火壁を参考にしてつくれば、確かに安心ではあります。

 建築基準法では、建物の規模や用途、敷地条件に合わせて様々な防火性能が要求されます。
 建物の延焼しやすい場所には法的に燃えやすい構造の外壁や木製建具は使えませんが、防火壁を建てることによって延焼を防ぎ法的にもクリアする方法があります。

万年塀とイチョウの組み合わせ。延焼を防ぐ効果はありそうです。(写真◎三星雅人)

 とはいえ、これも仰々しいと感じる方も少なくないでしょう。また、火が心配だからと塀を高くしても、アルミ製や網状のフェンスでは防火性は期待できません。
 しかし森村さんは、こうした背の低い壁やフェンスでも、樹木と組み合わせることで防火効果も期待できるというのです。

「フェンスの内側に、イチョウ、シラカシ、ツバキ、サザンカなど、樹皮が厚く、水を多く含んだ木を植えることで、防火効果が高まります」

 屋敷林にこうした木々が使われるのは、延焼を食い止めるためで、日本の伝統的な防火システムといえます。一方、マツ、竹、キンモクセイ、スギなどは燃えやすく、防火効果はまったくありません。

 しかし、手入れの行き届いた生垣は見た目にも美しいものです。家全体のバランスを考慮して、防災を意識した門まわりをつくるリフォームは一考の価値がありそうです。

≪お話をうかがった方≫

森村 厚さん

森村厚建築設計事務所代表。人気テレビ番組「大改造!!劇的ビフォーアフター」で「和の匠」として登場、和風住宅のみならず、注文住宅、店舗、宿泊施設、集合住宅など、新築、リノベーションを問わず建築に関する設計を行う。和の魅力を発信するかたわら、家の耐震診断や既存住宅状況調査、遵法性調査など調査鑑定業務も。一級建築士。

文◎三星雅人
写真◎平野晋子、森村厚建築設計事務所

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