暮らしを変えるオープナーシステム「DOAC」誕生秘話 [第2回]

便利なドア開閉で「あきらめない生活」を実現へ

空間
玄関まわり

【LIXIL】DOAC「一般社団法人_障害攻略課」タッチ&トライ座談会

既存ドアへの取り付けを可能にするまで

──「DOAC」は家庭の玄関ドアに取り付けて使用する電動オープナーシステムですが、LIXIL製以外のドアにも設置できるのが大きな特長ですね。

今泉 はい。一人の車椅子ご利用の方から「うちのドアはLIXIL製じゃないから取付けはできないですか?」と悲しそうな顔で質問をもらって、そこから自社製以外も対象にしようと自然に決まっていきました。

──かなり苦労されたのではないですか?

今泉 はい、大変でした(笑)。玄関ドアの老朽化も考えて20年前までの機種に絞り、そのなかで規格などを一つ一つ調べていきました。自社製に関しても廃盤品は詳しいデータが残っていないので、当時の開発メンバーに聞いたり、図面データを探してもらったり。

 自社製に限れば、7割近くの玄関ドアに取り付けが出来るようになりました。また、玄関ドアに孔をあけなくても取付けができる簡単な後付け工法※を実現しています。また、すぐに取り付け工事が完了し、その日のうちに使えるようにしました。
※特許出願済み

大塚 大変な作業ですよね。

今泉 車椅子ご利用の方の声を直に聞いていなければ、ここまではやれなかったかもしれないですね。


──機能面について大塚さんからアドバイスされたことはありましたか?

今泉 一つは開閉の速度ですね。車椅子に乗る方が危なくないよう遅くしたら、「健常者が出入りするのと同じスピード感が欲しい」と言われました。

大塚 バリアフリー商品に共通することですが、メーカーさんは安全性を担保したいからゆっくり稼働させようとするんですね。でも、僕らは普通の速度で使いたい。少しでも早く家に入れたほうがありがたいですから。

異例の短期間で完成

今泉 リモコンのサイズについてもアドバイスをいただきました。使いやすさを考えると大きいほうがいいように思いますが、「DOAC」のリモコンはあえて車のキーぐらいのサイズにしてあります。

大塚 小さいほうが持ち運びしやすく、操作もスマートにできますからね。

今泉 また、今どきの製品だからスマートホンにも対応したいと思っていましたが、車椅子ご利用の方に言われたんです。「リモコンで良いから、とにかく早く商品化してほしい」と。だから、まずは少しでも早く世に送りだすことを目指して、1年で完成させました。

──開発期間としてはかなり短いのではないでしょうか?

今泉 異例だと思います。通常の商品開発は最短でも3年はかかりますから。

大塚 福祉機器の場合もプロトタイプができてから商品化されるまで、3年~5年かかるのが通例です。でも、ユーザーは今すぐ必要としている。時間をかけていいものをつくっても、完成したときには誰からも求められないということが起こってしまうんです。

今泉 私が所属するビジネスインキュベーションセンターは「世の中に無いような、新しいことを素早くやる」ために、2019年4月に立ち上げられた部署なんです。だからこそ、スピーディーに進めることができたと思います。「DOAC」は、そのビジネスインキュベーションセンター初の商品になります。

大塚 去年の夏頃、初めて今泉さんに会って、今年2月にはほぼ出来上がっていましたよね。しかも、話していた通りのものになっていて、これはすごいなぁと感動しました。

「DOAC」の便利さが
「当たり前」の世の中にしたい

──「DOAC」は9月に新発売となりました。手応えはいかがですか。

今泉 すでにかなりの反響があります。いろいろなご意見もいただいていまして。車椅子ご利用の方だけではなく、健常者の方からも使いたいという声を聞きます。でも、健常者の方からはやっぱりスマートホンで操作したいと言われますね。

大塚 音声操作ができるようになれば、手が不自由な方でも使える様になりますね。

──「DOAC」が広く普及していけば、社会全体の認識が変わるかもしれないですね。

今泉 この商品の開発を通じて特に実感したのは、障がいを持つ人たちは、世の中に潜む課題にすでに気づいているんだということですね。

大塚 実際、インクルーシブデザインでは障がい当事者を「リードユーザー」と呼ぶんです。高齢になると、目が見づらい、耳が聞こえづらい、足がおぼつかないといった不自由さが誰にでも生じる。

 それらをすでに経験して解決法も知っているのが障がい者であり、そこを基準にした物づくりがスタンダードになれば、誰にとっても暮らしやすい社会になっていきますよね。

今泉 「DOAC」についていえば、すべての玄関ドアに付いて、障がいのあるなしは関係なく、当たり前に使われるようになるといいなと思っています。日本中の玄関ドアが自動で開いて、みんなの暮らしが便利になっていく。そんな製品にこれから育てていきたいですね。

大塚 障がい当事者は、日常生活で常に課題に直面して解決方法を探っていますが、同時に諦めていることも多いんです。玄関ドアの開閉は諦めていた部分なんですが、「DOAC」ができたことで不便さは解消されます。

 こういう商品がどんどん生まれるきっかけになったら嬉しいです。『諦めない生活は「DOAC」から始まった』みたいなことを言えるようになったら最高ですね(笑)。

今泉 いいですね、それを目指していきましょう!(笑)

──お二人とも、今日は開発秘話から未来図までお話しいただき、ありがとうございました!

※それぞれの立場から「世の中をより便利にしたい」という、熱い思いが込められて完成したオープナーシステム「DOAC」は、好評発売中です。


LIXILの電動オープナーシステムDOAC(ドアック)

www.lixil.co.jp/lineup/entrance/doac/

【お話を伺った方】

大塚訓平(おおつか くんぺい)さん

NPO法人アクセシブル・ラボ 代表理事 / 株式会社オーリアル 代表取締役
2009年6月に不慮の事故により脊髄を損傷、車いすでの生活に。障がい者の住環境、外出環境整備事業のNPO代表を務め、車いす目線で、様々な企業の製品やサービス開発コンサルティングを中心に活躍中。

今泉 剛(いまいずみ つよし)

LIXIL Housing Technology Japanプロデューサー
「DOAC」開発チームプロジェクトリーダー。社内のプロジェクトメンバーは2人という少数精鋭チームでありながら、約1年間で商品開発に成功。

文◎上島寿子

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)