
「お風呂の入り方なんて今さら……」とお考えの方もいるかもしれません。しかし、間違った入浴法には大きなリスクが伴います。自分の経験や感覚だけでなく、専門医のアドバイスを入浴に取り入れてはいかがでしょうか。今回は、正しいお風呂の入り方について、前回に引き続き温泉療法専門医の早坂信哉先生にお話をうかがいました。
「入浴時一番注意しなければならないのが、お風呂の温度」と早坂先生は言います。
「『熱ければ熱いほど体が温まって健康に良い』という話を聞くのではないでしょうか。これは誤りです。温度が高すぎるお風呂は体に悪影響を及ぼし、命に関わります」
上限としては何℃くらいを目安にしておけば良いのでしょうか。
「最高でも41℃までにしておきましょう。42℃以上の温度では、交感神経が刺激されすぎてしまいます。血圧が上がり脈も速くなりますし、血液の粘り気が強くなることで、血栓ができやすくなってしまうのです」
特に注意すべきなのはお年寄り。
「高温でなければ風呂に入った気がしないという人もいますが、それは加齢に伴い体の温度に対する感覚が鈍くなっているためです。体感を重視するのではなく、温度を基準に考えましょう。そのためにも水温計があると良いですね」
もう一つ注意して欲しいのは「寒暖差」とのことです。
「お風呂と脱衣所などで、ヒートショックに陥ってしまう人も多いのです。ヒートショックとは、寒暖差によって急激に血圧が変化し、心臓や血管に疾患が起こってしまうこと。最悪の場合心筋梗塞や脳卒中になり、命を落とすほど危険なものなので、注意してください」
ヒートショックで亡くなる人は多く、特に冬場には激増するそうです。
「年間で交通事故以上に人命を奪う、恐ろしい現象です。対策として脱衣所・浴室を事前に温めておくことで、リスクを下げられます」
できるだけ浴室とそれ以外の部屋の温度差を少なくすることが重要ですね。
では、正しい入浴法とは一体どのようなものなのでしょうか。
「40℃程度のお湯で10分間、肩までつかるのがベストです。ずっと入っているのがつらい人は、適度に休みつつ、合計で10分間つかるようにしましょう」(疾病によっては入浴が身体へ負担になることがあります。加療中の方は主治医に確認してください)
水分補給のタイミングも重要だとか。
「入浴前にコップ1、2杯の水を飲んでおきましょう。お風呂を出ると喉が渇いて水分を摂りたくなるものですが、口渇感を覚えるときには、すでに脱水が進んでいます。入浴時には、700mlから800mlの水分が体から失われるので、『水分摂取は入浴前』。これを覚えておいてください。水分補給は水でも構いませんが、ミネラル入り麦茶や牛乳、イオン飲料が効率よく脱水を改善してくれます」
入浴後に気を付けることは何でしょうか。
水分補給は入浴前に!
「お風呂から出たら、すぐに体を拭き、温かい格好をしましょう。汗がひくのを待っていてはいけません。温まった体が冷えて、血流の良い状態が持続しないのです。一刻も早い保温を心がけましょう。また、入浴後10分は『保湿のゴールデンタイム』。肌の乾燥が気になる人は、このタイミングを逃さず保湿することが大切ですね」
どれもシンプルな注意点ばかりなので、今日からぜひ試してみましょう。
「浴室は心底くつろげる空間にしておきましょう」と早坂先生。
「心身の緊張状態が続いている人も多いと思います。そうした生活の中でも、完全にリラックスするために入浴できるのが理想です」
日常の中に心休まる時間・空間を作ることで、疲れが取れやすいのだとか。よりリラックスするために、何か必要な物はあるのでしょうか。
「入浴を楽しくするグッズはおすすめです。たとえばBluetoothの防水スピーカーなどを持ち込んで、音楽を聴くのはどうでしょうか。適度に音が反響して、音楽がより良く聞こえます。近所迷惑にならない程度の音量で楽しんでみてください」
その他にも、LEDキャンドルなどで非日常感を演出することや、アロマオイルを使って香りとともにリラックス効果を得るのがおすすめです。
心を落ち着けてくつろげるかどうかは、浴室のつくりも関わってきます。
「当然、浴室はある程度広い方がくつろげます。狭いと窮屈な気分になり、休めないことが多いでしょう。気分転換できるような空間が良いですね。お風呂がどうしてもくつろげない、楽しめないといった場合は、お風呂のリフォームを考えても良いでしょう」
心地良い空間づくりのためには、浴室設備を見直すこともおすすめとのことです。
LIXILではくつろげる空間としてのシステムバスルームを独自開発しています。ご自身に合ったスタイルのバスルーム探しにお役立てください。
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次回は、早坂先生に温泉の詳しい効能やおすすめの温泉についてうかがいます。
温泉療法専門医。東京都市大学人間科学部学部長・教授。お風呂や温泉について医学的に研究する第一人者。生活習慣としての入浴の重要性に注目し、20年以上にわたって3万人以上を調査している。明快な解説でメディア出演、講演も多数。主な著書に『最高の入浴法』『おうち時間を快適に過ごす 入浴は究極の疲労回復術』など。
文◎熨斗秀信
撮影◎平野晋子
写真提供◎Shutterstock